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真実
いや、それもあるが、並んだ二人の姿を見て、湧き上がってくる嫉妬や妬みなどの感情が自分を苦しめるのではないか、そうも思っていた。
(セナが不在なことが、良かったのかもしれないな)
けれど、その思いをなぞらえるようにして、オリエの言葉は丁寧に重なった。
「セナは……亡くなったの」
「え、」
そんなはずはない。ともすると、それはオリエのタチの悪い冗談だ。
けれどそれも直ぐに否定されるのだ。
オリエが、そんなくだらない冗談を決して言うはずはない、と。
けれど、聞き間違いか。
ライアはもう一度、呟くように言った。
「嘘だ。そんな、はずはない」
否定。隣を見ると、オリエが膝を抱えて、顔をその膝へと埋めている。ビクビクと小刻みに動く背中。
夜の帳が下りてくる、まるで目がきかない暗闇の中でも、その空気の振動と声の震えで分かる。
それが真実だと物語っていた。
「……鈴果が効かなかったのか?」
空を見上げると、チカチカと星が煌めいている。
その夜空も、あの頃のままなのに。
そして、唐突に気がついた。
「……食べなかったのかっ!」
胸の中にせり上がってくる、何かがある。
「セナは鈴果を、た、食べなかったんだな」
その何かは、この闇夜を味方につけて、勢いを増してライアに襲いかかってくる。
頭に浮かんだのは、一つの鈴果をめぐって、クジを引いた時の、
セナの顔、
その眼。
「そうか、オリエ、君に食べさせようと……」
ズドンと身体に、稲妻のような衝撃が落ちた。
それは頭からつま先までを一直線に貫いていった。
いや違う、
その時は、鈴果を口にするべき時は、セナはオリエの考えを知ってはいなかった。
だから、
「俺だ」
だから、
「俺を、助けようと……」
愕然とした。
愕然とし、そして我に返った。
叫びたかった。
狂ったように、叫んでしまいたかった。
けれど、その声は、ランタンとダウナの地に虚しく響くだけ。
誰も居ない、この地に。
いつまでも、変わることのないこの空に。
この丘に。
ライアは隣にいるはずのオリエをも忘れ、その場に立ち尽くすしかなかった。
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