震える肩

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震える肩

「父もね、亡くなったの。二年ほど前、鈴果が極端に取れなくなって。その頃からルキアに移住の話が出てはいたらしいの。けれど、それから半年後、鈴樹が突然に枯れてしまって、ランタンはパニックに陥った。鈴果の争奪が始まって、その時に亡くなったって聞いた」 オリエはライアの肩に頭を預けた。 「その時、私はルキアの研究所で暮らしていたから。そんなことになっているなんて、ちっとも知らなかった」 「…………」 ライアは頭を傾け、オリエの髪に、そっと自分の頬を押しつけた。 「ランタン人がそれぞれにルキアへと押し寄せてきて、鈴樹を失ったダウナの子供たちも、それに続いたわ」 オリエが頬をすり寄せてくる。 「独りぼっちだった無菌室のドームに、人が溢れ返って……」 オリエが突然に顔を上げる。 「でもね、その時はもう治療法が見つかっていたの。セナが見つけたのよ。きっかけは、ライアの手紙」 「俺の手紙?」 「そうなの、手紙についていた砂がヒントになったの」 オリエは、ツルマンの川に生息する藻の一種が、鈴果の代替品になった経緯を話した。 その初めての被験者が、オリエだということも。 「しかも、ランタン人もダウナ人も一度服用すれば、一生その免疫が身体を守ってくれる。凄いでしょう、セナが見つけたのよ。先に投薬されていた私は、みんながドームにやって来た頃には、すっかり元気になっていた。でも、」 オリエの声が、闇を帯びた。 「その一年ほど前のことだった。薬ができる前に、私が日光が原因の病気になってしまって。薬の開発が間に合わないって、セナは考えた。それで、自分が食べずに持っていた鈴果を……私に、」 ふるりと声が震える。 「私が、ちゃんとしてたら……セナは死ぬことはなかったのに」 ライアは、オリエの肩を抱き締めた。 その肩は細く、ライアが覚えているより骨ばっていた。 (痩せたんだな。悲しい目に遭って、こんな……) 言葉も思い浮かばなかった。 三人の幼なじみはお互いに、ただ生きて欲しい、そう願っただけなのに。 『生』とはこんなにも、過酷で辛いものなのか。 『運命』を考える。 けれどそれを考えた時、必ずこれという答えは手に入りはしない。 そして、それから逃れられる方法も、決して与えられないのだ。 それでも、考え続ける。それがおまえの『運命』に組み込まれているのだとでも言うように。 (セナ、お前も考えただろうか) そっと、眼を瞑った。
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