32人が本棚に入れています
本棚に追加
/81ページ
震える肩
「父もね、亡くなったの。二年ほど前、鈴果が極端に取れなくなって。その頃からルキアに移住の話が出てはいたらしいの。けれど、それから半年後、鈴樹が突然に枯れてしまって、ランタンはパニックに陥った。鈴果の争奪が始まって、その時に亡くなったって聞いた」
オリエはライアの肩に頭を預けた。
「その時、私はルキアの研究所で暮らしていたから。そんなことになっているなんて、ちっとも知らなかった」
「…………」
ライアは頭を傾け、オリエの髪に、そっと自分の頬を押しつけた。
「ランタン人がそれぞれにルキアへと押し寄せてきて、鈴樹を失ったダウナの子供たちも、それに続いたわ」
オリエが頬をすり寄せてくる。
「独りぼっちだった無菌室のドームに、人が溢れ返って……」
オリエが突然に顔を上げる。
「でもね、その時はもう治療法が見つかっていたの。セナが見つけたのよ。きっかけは、ライアの手紙」
「俺の手紙?」
「そうなの、手紙についていた砂がヒントになったの」
オリエは、ツルマンの川に生息する藻の一種が、鈴果の代替品になった経緯を話した。
その初めての被験者が、オリエだということも。
「しかも、ランタン人もダウナ人も一度服用すれば、一生その免疫が身体を守ってくれる。凄いでしょう、セナが見つけたのよ。先に投薬されていた私は、みんながドームにやって来た頃には、すっかり元気になっていた。でも、」
オリエの声が、闇を帯びた。
「その一年ほど前のことだった。薬ができる前に、私が日光が原因の病気になってしまって。薬の開発が間に合わないって、セナは考えた。それで、自分が食べずに持っていた鈴果を……私に、」
ふるりと声が震える。
「私が、ちゃんとしてたら……セナは死ぬことはなかったのに」
ライアは、オリエの肩を抱き締めた。
その肩は細く、ライアが覚えているより骨ばっていた。
(痩せたんだな。悲しい目に遭って、こんな……)
言葉も思い浮かばなかった。
三人の幼なじみはお互いに、ただ生きて欲しい、そう願っただけなのに。
『生』とはこんなにも、過酷で辛いものなのか。
『運命』を考える。
けれどそれを考えた時、必ずこれという答えは手に入りはしない。
そして、それから逃れられる方法も、決して与えられないのだ。
それでも、考え続ける。それがおまえの『運命』に組み込まれているのだとでも言うように。
(セナ、お前も考えただろうか)
そっと、眼を瞑った。
最初のコメントを投稿しよう!