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変わらぬ風景
✳︎✳︎✳︎
いまだ信じられないという思いを持て余しながら、ライアとオリエは墓参りに来ていた。
途中、手折った花々を、オリエが右腕に大切そうに抱えている。
「セナがこの丘に帰りたいって言っていたから」
ランタンを望む丘に、石が積まれている。それが墓だとは誰も思わないだろう。それほど、この丘の風景に溶け込んでいる、そんなひっそりとした墓だった。
横たえられた花は少し、しおれてはいるが、まだその色を宿している。
美しい、オレンジ色。オリエの巻布と同じ。
「こんなお墓しか、用意ができなくて」
ここに本当にセナが眠っているのか?
いまだに信じられない。もちろん名前も何も記されていない。
「オリエがやってくれたのか、大変だったろう」
きっと。
オリエはセナの死を悲しみ、セナを想いながら石を探して、泣きながら積んでいったのだろうと思う。そう考えると胸が千切れるほどに痛んだ。
ライアはそんな時に、オリエの側に居なかった自分を責めた。
「すまなかった。一番辛い時に、独りにしてしまって」
「ううん、」
墓の前で、長い間、二人で寄り添って座った。
ふいに、オリエが巻き布の腰で差し込んだ部分から、紙を取り出した。
「……これ、セナからライアに」
目の前に差し出してくる、少し皺の入った紙。
「私は見ちゃだめだって、言うもんだから」
むうっと下唇を出して、拗ねた顔をする。
ライアはそれを見て、ふと吹き出した。
そんな拗ねた顔も、そしてすべてが愛おしい。
きっと、セナもこの手紙を渡す時、そう思ったに違いない。
手紙を貰うと、オリエがすくっと立ち上がって、「ダウナの役場で待ってるね」と、丘を早足で歩いていった。
その飴色の髪が揺れる後ろ姿は、夕日に照らされて、とても神々しかった。
ライアは単純に、この丘に似合う、美しい風景なのだと思った。
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ライア、君は本当に良い仕事をしてくれた。
お陰でオリエを、ランタンやダウナを救うことができるはずだ。
君は、なぜだと思っているだろうね。
僕が、どうして鈴果を食べなかったか。
その理由を書くのには、少しだけ勇気がいるんだ。
深呼吸をさせてくれ。
最初は、君を助けるつもりだった、と言いたいところだが。
樹木祭の最終日のあの日、本当は僕が当たりのクジを引くことは、すでに決められていた。
フューズによって、選ばれていたんだ。
君は知ってはいなかっただろうが、僕は鈴果に代わる代替品について、論文を二本書いていた。
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