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小さな宝物
「おみやげよりも、リアナ、お父さまには早く帰ってきてほしいの」
「そうね、きっとお父さまも早くリアナのもとへと帰りたいと思って、今、急いで山を登っているわ」
「タオ山のてっぺんについてるころかなあ」
「ふふ、きっと山の頂上でリアナーって叫んでるわ」
「うんっ」
むくれた顔が、笑顔に変わる。
そして、次には頬を赤らめると、言いにくそうに下を向いた。
「どうしたの?」
「……うん、お父さまはたぶん、お母さまの名前も呼んでいると思う」
「ふふふ、それはどうかしら。お父さまはリアナのことが一番だから」
「……そうかな」
照れたような顔を見て、オリエは微笑みかけた。
「そうよ」
丘の上へと指をさす。
「さあ、もう一人のお父さまにも、ご挨拶を」
「うんっ」
機嫌を直して坂を駆け上がっていくリアナの後ろ姿を見て、オリエは安堵の息をついた。
その姿を目で追いかけながら、オリエは足を進めた。
✳︎✳︎✳︎
「おかえりなさいっ、お父さまっ!」
飛びついてくるリアナを軽々と片腕に抱き上げて持ち上げると、リアナの小さな悲鳴が溢れた。
「わああっ、落ちるう」
「リアナ、いい子にしていたか」
リアナの頬や額に何度もキスをする。
「お父さまも、いい子だった?」
返されて苦笑する。
「ライアっ」
顔を上げると、玄関の階段からオリエが駆けてくる。
「オリエ、」
ライアはリアナを片腕に乗せたまま、オリエの元へと歩き寄っていって、抱き締めた。
「おかえりなさい、ライア」
「ただいま」
途端に愛しさで溢れそうになる。
ライアは左腕にぐっと力を込めると、オリエの頬にキスをした。
自分が帰るといつも、オリエは今にも泣き出しそうな顔で、駆けてくる。
それは自分へと向けられた心配や愛情によってだと分かってはいる。が、毎回こんな風に縋りつくように腕の中に飛び込んでこられてはと、苦笑いしか出ない。
「お父さま、リアナにおみやげはある?」
リアナの喜びでうわずった声にほっとしてから、リアナを両手で抱き直す。
「……ああ、あるよ」
ライアの顔に陰が差す。
それを、リアナが察知して、直ぐにも小さな両手を差し出して、ライアの頬を包む。
「お父さま」
心配顔を寄越してくるのを見て、ライアは苦笑する。
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