重い選択

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重い選択

「なあオリエ。聞いてくれ。無理に俺ら二人から選ばなくていいんだよ。他に好きなヤツがいるなら、それはそれでそいつと結婚してくれりゃあ良い……」 「そんな人、居ないからっ!」 「オリエ、そんな風に泣かないで」 セナがひとつ溜め息をついた。落ち着いた声で言い聞かせるよう、静かに語りかける。 「そうだね、先延ばししたって意味がないっていうライアの考えもわかる。いつかは話し合わなきゃいけないことだからね。オリエ、これはライアと僕、二人で長い間話し合って決めたことなんだ。でもね、君に押しつける気はないんだよ。それに、この意見についてはオリエも含めて一緒に話し合いたいと思ってる。それに話し合っていれば、いつもの僕たちのようにもっと良い方法が見つかるかも知れないだろ。冷静になって考えてみて、君の意見を聞かせて欲しいんだ」 「おい、セナっ」 痺れを切らしたように、ライアが切羽詰まった声で入る。 「他に方法なんてないだろう!」 「ライア、おまえももうちょっと冷静になれ。おまえだって、リンドルとハーグ、どちらかを選んでどちらかを捨てろと言われて、直ぐに選べるのか?」 ライアが身体を硬直させた。その様子でライアがどちらの楽器をも愛していることが見て取れる。 リンドルはこの地方に広く伝わる固有の弦楽器で、十本の弦を張った木製の楽器である。ライアは幼い頃からこのリンドルをこよなく愛し、研鑽を重ねてきた。 そして、ハーグ。 これは、ダウナ特有の楽器で、これも弦楽器の一種であるが、ダウナ産の楽器であるにも関わらず、ダウナにはこの楽器に詳しい継承者は一人も居らず、ライアはリンドルの弦を両の指で弾いて奏でる演奏方法からヒントを得て、独自の演奏法を編み出していた。 これは、ダウナの街にそういった文化や芸術を後世へと繋いでいく、いわゆるダウナの熟練者が、二十年という寿命に阻まれてしまっていることに由来する。 ダウナ出身のライアやセナは、学校はもちろんのこと習い事一つにしてもランタンまで通わねばならなかったし、そういった意味では苦労の連続であった。 大人が一人として存在しないという厳しい現実。子どもがなに一つをも教えられ伝えられることなしに、自分の身一つで生きねばならない環境。 それが、あまりにも過酷な環境であることは、想像に難くない。 ダウナの街の中心に建つ小さな役所には、そういった生活の知恵などを書き記した『ダウナ歳時記』という書物が遺されている。 これはダウナの歴史や偉人のストーリーから、かまどの使い方や薪割りの方法、食物の育て方などの膨大な資料であり、それは若者の間では未だに受け継がれていて、その量を少しずつ増やしている。 ライアはそこへ、ハーグの演奏方法を自分独自のものであると前置きしてだが、書き記したこともあった。
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