逃れられない

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逃れられない

「そりゃあ、直ぐに選ぶってわけには……」 「そうだろう。それと一緒だよ。オリエにも少し考える時間をやってくれ。僕たちだって、話し合いにかなりの時間を掛けたはずだ」 「…………」 これで少しは余裕ができるだろう、セナがそう算段をつけると、オリエに顔を向けて再度、念を押すようにして言い繋いだ。 「そういうわけだから。ライアと僕、どちらと結婚するのか、それともしないのか。もし結婚するとなれば、オリエのお父さ、……フューズにも、相談しなくちゃならない。まあ、反対されるのは目に見えているけどね」 苦く笑いながら、セナは続けた。 「オリエ自身が決めて良いんだよ。こんなこと、誰にも強制できないし、させたくない。けれど、わかっていることは、僕たちはもう十八で、あと二年でこの世から消えるということだ。子孫を残すも残さないも、実のところ僕たちにとってはどうでもいい。そんなことより後に遺していくオリエには、絶対に幸せになって欲しいんだ。だからこそ、二人から無理に選ばなくて良い。幸せになるなら、ランタンの他の男と結婚してくれても構わない。これは、僕たち二人の共通の想いだ」 オリエにはもう言い返す気力も無かった。 二人にそのぐらつきようもないほどの強固な意思を明かされてからは、涙も枯れ果ててしまうのではと思うほど、今日という一日を泣き通していたからだ。 「セナ……ライア……」 幼馴染との別れが近づいている。 それはもちろん、自分の父サンダンの口から直接聞かされていたことでもあり、三人で『ダウナ歳時記』を読んだときに突きつけられた真実であり、それが自分たち三人の上へと覆い被さってきて逃れることができない『運命』であることも知っていた。 けれど、頭で理解していても心はそうはいかない。 分かっていても、どこか遠くの国の出来事のように思っていて、手っ取り早く言えばその事実に目をつぶり、逃げてきただけのことだったのだ。 命の期限はあと二年。三人の若者の前に、嫌が応にも現実は突きつけられた。 オリエは、呆然となりながらも、二人へと手を伸ばした。ライア、セナの二人も同じく手を伸ばし、握った。 握り返してくれる手は、オリエの手よりはるかに大きく強い。温かい体温が伝わってきて、身体の奥底で三人の体温がマーブルのように混じり合った。 幼い頃はこうやって手を繋ぎ、丘のそこら中を駆け回っていたっけ。 その光景を思い出すと、新たな涙に支配されて零れ落ちそうになり、オリエは空を見上げて瞬きを二度、重ねた。
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