episode⑩-1

1/1
前へ
/47ページ
次へ

episode⑩-1

それはある日の午後… 僕はナナコさんたちの住む城の中庭にいた。 テラスにあるチェアに座ると 年中枯れることなく咲き続ける フリージアの花壇がよく見える。 そこはミカと初めて会った場所…。 そして突然の別れを余儀なくされた場所でもあった。 あれからうんと月日が経ったような気もするし ついこの間のことのようにも感じる。 僕の中ではまだ、ミカとの時間は 止まったままだけれど…。 「チャンミン…来てたんだ」 カナがやってきて、僕の隣に座った。 「ああ…カナ。おじゃましています」 そのまま僕とカナは言葉を交わすこともなく 2人でフジーリアを見つめた。 ヒョンにそっくりなカナの鋭い能力は 僕の心の中などすっかり読み取っているはずだが カナは何も言ってはこない。 僕もカナに気持ちを隠すことはしなかった。 カナの僕に対する想いは痛いほど わかってはいたけれど…。 でもね… 僕がどれだけミカを想っても この想いは一生叶うことなど、ない。 僕はミカを抱きしめることも、 キスすることもできないんだ。 それでも… ミカに会いたい…と思う。 ただ、会えるだけでいい。  それだけで…。 ふいにカナが僕の右手をぎゅっと握った。 『チャンミン…辛いときは泣いていいんだよ』 僕の心の中にカナの声が響く。 やっぱり僕の考えていることは 君にはお見通しなんですね、カナ…。 「ありがとう、カナ。でも僕は男の子だから、 頑張りますよ」 わざとおどけてカナに言うと カナもふっと笑った。 少し冷たい風が 僕とカナの髪を揺らすように流れた時、 何かが突然、空から落ちてきた…
/47ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加