episode⑪-1

1/1
前へ
/47ページ
次へ

episode⑪-1

今日もこの世界の空は青く澄み渡っている。 いい天気…だな。 僕はナナコさんのところからもらった フリージアの株を庭の奥の 日当たりのいいところに植え替えていた。 ナナコさんの話によると このフリージアは「天使のフリージア」で 年中枯れることを知らないのだという。 ああ…チャンミン兄さまの大切な人、 ミカさんがここに落ちてからそうなったという あのフリージアか…。 僕はお会いしたことはないが カナの話だと、本当に美しい人で どこかチャンミン兄さまに似ているらしい(笑) 兄さまに似ているのであれば、 相当の美人だな。 でも2人は年に1度しか会えないらしい。 それはどんなに辛いことだろう…。 僕がミサキと年に1度しか会えなかったら… たぶん耐えられそうにない(笑) ミサキには月に2,3度は会っているし 来年の3月にミサキがガーデニングの 学校を卒業したら、この世界に来てもらって 一緒に暮らすつもりだ。 そう…僕はミサキに妻になってもらいたいと 思っている。そしてこの城で永遠に 一緒に暮らしていきたいんだ。 そのためには…ミサキにヴァンパイアに なってもらわなくてはならない。 ミサキはそれを受け入れてくれるだろうか…? 1度はそれを断られて元の世界に戻っていった ミサキを僕は忘れることができなくて、 こうしてまたミサキと付き合っているんだけど ミサキにはどこかまだ思い切れていない部分が あるような気がして・・・ そうだ… ナナコさんに相談してみよう。 人間の世界からこの世界にきて しばらくは人間のまま暮らしていたナナコさんなら ミサキの気持ちがよくわかる気がした。 僕は庭で美しく育ったピンクのバラを何本か摘んで ナナコさんの住む城を訪ねることにした。 「いらっしゃい、ユンジャ。 まあ…なんて美しいバラ!!さすがね、ユンジャ」 「トーマスの手入れがすばらしいだけですよ」 「うふふ。もう坊ちゃまに指導することは 何もありませんって、トーマスが褒めていたわよ」 ナナコさんは僕に奥のイスを勧めながら いい香りのする紅茶を入れてくれた。 「ナナコさんに聞きたいことがあって」 「ミサキちゃんのことね?」 すっかりヴァンパイアとしての能力が身についた ナナコさんが優しく微笑む。 「ミサキは僕のところに来てくれるでしょうか…」 「あまり焦ってはダメだと思うわ、ユンジャ」 「やっぱりそう思いますか…」 「ミサキちゃんは元の世界で何か やりたいことがあるのかも。」 「ガーデニングの仕事…ですか?」 「他にあるのかもしれないわね。」 「ここではできないことでしょうか…?」 「ミサキちゃんとたくさん話しなさい、ユンジャ。 2人にはきっとそれが必要だと思うわ」 「話す…ですか?」 「そうよ。いろんな話をするの。 人間には人の心を読む力はないけれど、 代わりにいろいろ話すことで、 お互いに理解を深めることはできるの」 「ナナコさんもとうさまと たくさん話をしたんですか?」 「私?そうねえ…」 ナナコさんは少し考える表情になると、 にっこりと笑った。 「ユノとは話し合う…というより、 私の話をたくさん聞いてもらったかも」 「とうさまは自分のことをあまり 話さなかったんですか?」 「ユノの場合は私を元の世界に戻すと 最初は決めてたみたいだから」 「そっか…」 「妻はユンジャのおかあさまだけって思っていたし」 「あ…」 「私はね…奥さんにはなれなくても良かったの。 ただユノのそばにいたくて ヴァンパイアになることを決めたけど…」   「そうだったんですね…」 「でも、ユノは私を奥さんにしてくれた。 そしてカナを授かることができて…幸せよ、本当に」 「とうさまの…父の選択は正しかったと思います。」 「ユンジャ…」 「母にとっても、僕たちにしても ナナコさんはかけがえのない家族ですし カナは僕たちのかわいい妹ですから」 「ありがとう…。ユンジャにそう言ってもらえるのが 一番嬉しいわ…」 涙ぐみながらナナコさんが僕を ぎゅっと抱きしめてくれる。 僕にとってナナコさんはお姉さんのような 存在なのかもしれない。 「来ていたのか、ユンジャ」 後ろから暖かな声がする。 「とうさま…」 「ミサキちゃんのことで私に相談しに来てくれたの」 「そうか…。ミサキの気持ちをよく聞いて ゆっくり決断すればいい」 「はい…」 「ただし、ミサキから無理に元の世界を 奪うようなことはするなよ」 「わかりました」 とうさまはにっこりと微笑んでナナコさんを 引き寄せると髪にキスを落とした。 「カナは?」 「庭にいるわ」 「じゃあ、お姫様のご機嫌伺いに行くとするか」 とうさまは笑って立ち上がると 僕の頭をくしゃっと撫でて、庭の方に向かった。
/47ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加