episode⑩-2

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episode⑩-2

空から突然何かが落ちたのは あのフリージアの花壇… 「チャンミン!!!」 カナが驚いて立ち上がる。 「行きましょう、カナ」 僕は冷静を装ったが 心臓が飛び出してしまうんじゃないかと 思うくらいドキドキしていた。 フリージアの花の香りに混じって香ってくるのは あの野ばらのような香り…。 まさか…君にまた会うことが 出来るんだろうか…? しかし、その甘い予感は すぐに恐怖にも似た感情に変わった。 野ばらの香りと共に混じっていたのは 濃密な血の匂い… それは僕たちヴァンパイアにとっては 日常の匂いでもあるが その血の匂いは とてつもない分量のものであることが すぐにわかった。 そして、カナと共にフリージアの花壇に たどり着いた時… 確かに落ちてきたのはミカ…君だったけれど 「きゃああああっ!!!!」 カナが悲鳴をあげて僕にしがみつく。 「カナ、見ちゃダメだ!!!」 僕は思わずカナを抱きしめながらも その光景に体の震えが止まらなかった…。 愛しい人は体中を血に染めて フリージアの花の中に横たわっていた。 ミカの体のまわりのフリージアが ミカの血で赤く染まり、 みるみるうちに枯れていく。 それはミカの死を思わせるようで 僕は恐怖で気が狂いそうになった。 「カナ…ここにいて」 僕はカナをそっと花壇に背を 向けるようにして座らせると、 ミカの元に駆け寄り、抱き起こした。 僕のシャツが暖かいミカの血で どんどん赤く染まっていく。 「ミカ…ミカ!!しっかりして!!!」 どくどくと溢れる血はミカの背中から伝わってきた。 僕の右腕に触れるミカの美しい羽根… だが…左側の羽根が無残にも もぎとられたようになかった… このままではミカが死んでしまう…!!! 僕は無意識に脳裏でヒョンを呼んでいた。 ヒョン…ヒョン!!! お願いです…!!! ミカを…ミカを助けて…!!! * * * * * * 「…チャンミン?」 ramuの部屋で過ごしていた俺は 弟の悲痛な叫びを脳裏で聞いていた。 「チャンミンさんがどうかしたの?」 ramuが心配そうに俺を見つめる。 チャンミンがこんな風に気持ちを送ってくることは めったにない。 よほどの危機が訪れた時に限られるが あいつは俺に危害が及ぶと感じた時は 逆にそれをやめてしまうクセがある。 チャンミン自身の危機ではないことは すぐにわかったが、 尋常な事態ではおそらく、ない。 「行かなきゃならないようだ、ramu」 「早く行ってあげて、ユノ。 チャンミンさんが心配だわ」 「すまないな」 「いいのよ。気をつけてね」 俺はramuにキスをすると 裸の胸に脱ぎ捨てたシャツをはおり、 部屋を飛び出した。
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