episode⑫-3

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episode⑫-3

「ユノ、そろそろ昼にするか」 「はい、とうさま」 久しぶりに父と鹿狩りに出かけた。 子供の頃はこうしてよく父と森に出かけたものだ。 思えば、子供の頃から獲物を狙う行為 そのものが好きだった。 狩りの技術もつたないものではあったが 「おまえは筋がいいぞ、ユノ」と 父から頭を撫でられることが嬉しかった。 俺とチャンミンの父・ソンヨルは 静と動の両方の性格を合わせ持つ素晴らしい人で この世界の王とまで言われた人でもある。 俺の性格もこの父から受け継いだものが 多いように思う。 逆にチャンミンは母・クレアによく似た、 静の部分を多く持つ子供だった。 父と母が仲むつまじかったように 俺とチャンミンも仲の良い兄弟だった。 静の部分を持ちながらも いざというときのチャンミンの精悍な瞬発力を 俺は羨ましいと思っていたし チャンミンはチャンミンで 小さい頃から俺を常に立ててくれた。 そのかわいい弟が… もうすぐこの世界からいなくなって しまうかもしれない。 「今日は大猟だな」 「ええ。保存用の血も申し分ないでしょう」 父はいつしか街へ「狩り」に出かけることはなくなり 動物の血を得ることで悠々自適の生活を送っている。 「チャンミンもクレアの元に来ているようだな」 「ええ。あいつはあの場所がお気に入りですから」 「何か…思うところがあるんだろう?」 「少々…かあさまには辛い話かもしれません」 「だが、もう決めているんだろう?」 「おそらく…」 「あいつらしいな」 「そう思います」 父はふっ…と笑うと ゆっくりとワインを口に運んだ。 「行かせてやれ、ユノ。こっちは おまえとおまえの息子たちが りっぱに守ってくれているから心配ないだろう?」 「はい…。そのつもりです」 久々に母の手料理を食べながら 俺は思いを巡らせていた。 ここしばらくの間に 本当にいろんなことがあった気がする。 ずいぶんと人間の世界に関わってしまった 感もあるが…。 「それもおまえらしくていいじゃないか」 「とうさま…」 俺の心を読んだ父は、にっこりと微笑むと、 すっくと立ち上がった。 「もうひと狩り行くか?次は負けんぞ、ユノ」 「のぞむところです、とうさま」 この背中を見ながら、 いつか自分も父のような城主に…と思ってきた。 俺は…なれたのかな…? 「ユノ」 「はい」 「しばらくしたら、あの地へクレアと共に 行こうと思っている」 「えっ…」 「わしもとうさまに会いたくなったんだよ」 ははは…と笑うと 父は森の茂みに向かって 綺麗な放物線を描くように矢を放った。
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