episode⑩-3

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episode⑩-3

僕はミカを抱き上げると、城まで走った。 真っ青になりながらもカナが 「かあさまを呼んでくるね、チャンミン!!」 と、先に走り出した。 僕の腕の中でミカがうっすらと目を開ける。 「チャ…ンミン…」 「話しちゃダメだ、ミカ!!」 痛みに顔を歪めながらも うっすらと微笑むミカは本当に美しくて でも、その命が消えてしまいそうで 僕は涙が止まらなかった。 「泣か…ないで…チャンミン…」 「ミカ…しっかりして…!!」 「やっと… 会えた… チャンミン」 「どうしてこんなことに…」 「やっと…会え…た… チャンミンに…」 ミカにこれ以上しゃべらせたくなくて 僕は我を忘れてミカの唇を自分の唇でふさいだ。 え…? 何も…起こらない? めまいも、景色が白くなるようなあの感覚も… なぜ…?? 「もう…天使じゃ…ない…から」 ミカはそう言うと気を失った。 「ミカ!!!!」 何が…何が起きたんだ、ミカ…!!! * * * * * * 「ミカちゃん!!!どうして…」 城の中に入ると、 駆けつけてきたナナコさんが真っ青になりながらも ミカの体をブランケットで包む。 そのまま、僕とナナコさんは奥へと急いだ。 カナも後に続く。 かつてミカが過ごしていたあの客間にミカを運んだ。 「血を止めなくちゃ。このままじゃあ 大変なことになるわ」 「はい…」 「チャンミン!!」 そこにヒョンがやってきた。 「ヒョン!!  ミカの羽根が…」 ヒョンはミカの背中の羽根を見ると ミカに静かに話しかけた。 「ミカ。ゆっくりでいいから、羽根をしまえるか?」 ミカは力なく、でもこくりとうなずいた。 そして、体に力を込める。 「あああああっ…!!」 背中から吹き出す血しぶき。 ナナコさんがカナを抱きしめながら目をそむける。 僕はミカを抱きしめながら この凄惨な光景に必死に耐えた。 ヒョンは羽根を体の中に収めたミカの背中に 両手をゆっくりとあてがい、気を込めた。 柔らかな光が背中を包み、 ミカの背中の傷がゆっくりと塞がっていく。 吹き出していた血が止まり、 色を失っていたミカの頬に赤みが差し始めた。 安らかな表情に戻っていくミカ。 「良かった…ミカ…」 「外の傷はこれで治るだろう。  だが…もがれた羽根は俺にも戻せない」 「そんな…とうさま…」 絶句するカナ。 「ミカ… 何があった?」 ヒョンの問いかけに ミカは弱々しく微笑むと、再び気を失った。 「とりあえずはミカちゃんを休ませましょう。 カナ。あなたのでいいから、着替えを持ってきて」 「はい、かあさま」 「ハンナ、お湯を沸かして。 それとタオルを用意してちょうだい!!」 「かしこまりました、奥様」 「ここは私に任せてくれる?チャンミンさん」 「はい…お願いします」 ナナコさんにミカを任せて 僕とヒョンは部屋を出た。 「ミカの世界で何かが起こったのかもしれないな」 「ヒョン…僕はどうしたらいいんですか…??」 ヒョンはにっこりと笑って僕の肩を抱いた。 「ミカのそばにいてやれ、チャンミン。 それがミカの一番望んでいることだろう」 「はい…」 「心配するな。外側の傷はもう大丈夫だ」 羽根と心のケアだけだ、後は…。 そう言うとヒョンはramuさんの城へ戻った。
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