episode⑩-5

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episode⑩-5

ミカの背中の傷はどんどん回復していった。 だが、もがれた羽根だけは元には戻せないでいた。 ミカの傷の治り具合を見て、 僕は自分の城へミカを連れていこうと考えた。 実は僕も自分の城を持っている。 だが、独り身の僕には広すぎるのもあって 手入れだけを任せて 僕自身は小さな屋敷にヒョンと2人で住んでいる。 ヒョンは2つの城をしょっちゅう行き来しているので 屋敷はほぼ僕の住みかでもあるわけだが。 いつか僕も妻と呼べる人を迎えることになったら 自分の城に移ろうと考えていた。 僕の城は… ramuさんの住む城ほどではないが 野ばらが庭中に咲きみだれる美しい城だ。 それもミカの持つ雰囲気に似ていて…。 ミカをそこに連れていって このままずっと暮らせたら…。 そう考えていた。 だが、ナナコさんにその話をすると 「それがね…チャンミンさん」 と、少し困った顔をした。 「どうしたんですか?」 「カナがね、ミカちゃんに ここにいて欲しいって言うのよ」 「カナが…??」 僕はカナの複雑な心境を思った。 ミカと僕が2人で カナの目の届かないところにいってしまうのは…。 「それもあるのかもしれないけど、 ミカちゃんのお世話をしたいって」 「ミカの世話を?」 聞けば、この頃はナナコさんに代わって カナがミカの背中の傷に薬を塗ったり 着替えを手伝ったりしているらしい。 ミカもカナと楽しそうに過ごしているようで 2人でフリージアの手入れをしたり 一緒にお菓子を作ったりしているようだ。 「カナには女の兄弟がいないでしょ? だからミカちゃんがお姉さんみたいな 感情もあるんじゃないかしら…」 「そうだったんですか…」 「もう少しミカちゃんに ここにいてもらってもいいかしら?」 「ミカが楽しそうにしているのであれば、 僕は構いません」 本当は少し残念だったが(苦笑) ミカとカナの笑顔を奪いたくはなかった。 「ごめんなさいね、チャンミンさん」 ナナコさんはふいに いたずらっ子のような表情になると 僕の耳元でささやいた。 「夜は…おじゃましないから」 * * * * * * ミカのいる客間に行くと カナとミカが楽しそうに話している姿が 目に飛び込んできた。 まるで姉妹のような2人…。 「あ、チャンミン来たの?」 カナが僕に声をかける。 「いらっしゃい、チャンミン」 ミカが微笑む。 「じゃあ、ミカちゃんまたね~」 カナがミカの元を離れて部屋を出ていく。 すれ違ったカナからは 嫉妬や悲しみといった感情は伝わってはこなかった。 カナ… 「カナちゃん、かわいいね」 カナの後姿を見ながらミカが言った。 「ああ。僕にとっては姪というより 娘や妹の感覚かな」 「チャンミンのこと…大好きでしょ、カナちゃん」 「え…?」 ミカはにっこりと笑った。 「私もね…心の中がわかるのよ。 チャンミンと同じように」 「そうだったのか…」 じゃあ、僕の気持ちは 最初からミカにはわかっていたことになる。 「カナがミカにここにいて欲しいって」 「本当に…?」 「ああ。本当は僕の城に ミカを連れていこうと思ってたんだけど」 僕はそう言ってミカを抱き寄せた。 「どっちも嬉しい…」 僕の胸に顔を寄せながらミカがつぶやいた。 「私、幸せよ…チャンミン」 「ミカ…」 「ずっと…一緒にいて、チャンミン」 「ああ。ずっと一緒だ」 僕は思わずミカの顔を両手で包むとキスを落とした。 ああ…好きだ…ミカ。 「チャンミン…」 「ん…?」 「今夜は…泊まっていって」 ミカはそう言うと、再び僕の胸に顔をうずめた。
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