episode⑩-7

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episode⑩-7

ミカを僕の城に連れていくことは、結局やめて 以前のように僕はナナコさんの住む城に 通うようになった。 僕が城にやってくるまでは ミカの部屋には必ずカナが遊びに来ていたけれど 僕が来るとカナは 「ミカちゃん、またね~」 と部屋を出ていく。 カナを傷つけてはいないだろうか…? 気になった僕はナナコさんに聞いてみた。 「心配してくれてありがとう、チャンミンさん。 でもカナは大丈夫よ」 「本当ですか?」 「ええ。あの子はチャンミンさんと同じくらい ミカちゃんのことが大好きなのよ」 「だといいんですけど…」 「ミカちゃんをここに住まわせてくれて ありがとう、チャンミンさん」 「ナナコさん…」 「だって、妹は作ってあげられるかもしれないけど 姉は作ってはやれないもの」 ふふっと笑うナナコさんの優しさを 僕は本当にステキだと思った。 ヒョンの女性を見る目はやっぱりすごい…な。 ミカが天上の天使ならば ナナコさんはこの世界の天使なのかもしれない。 こうして僕はこの城に通い続け 夜は必ずミカを抱いたけれど まだ…この牙をミカに立ててはいなかった。 満月の夜にヒョンと共に狩に出かけて 「食事」はそこで済ませるようにしていた。 「チャンミン…私の血を吸って…」 ミカはそう言ったけれど その決心がつかないままだったある日…。 いつものようにナナコさんの城を訪ね ミカのいる客間に入ろうとすると、 ドアの外にいたカナが小さな声で 「チャンミン…」と呼ぶので 客間には入らずに話を聞くことにした。 「どうしたんですか?カナ」 「あのね…」 カナは少し悲しそうな顔になった。 「朝、ミカちゃんのところに行ったらね、 ミカちゃん、泣いてたの…」 「泣いていた…?」 「よくわからないんだけどね、 ミカちゃんの家族が病気みたい」 え……?? 「チャンミン、ミカちゃんをなぐさめてあげてね」 「ありがとう、カナ」 カナはうん、とうなずくと 自分の部屋に戻っていった。 ミカが…泣いていた… 家族が…病気…?? 僕は胸がしめつけられるような気持ちになった。 ミカは家族に会いたくても、戻れないんだ… 客間に入ると ミカは僕に背を向けるようにして 窓の外を眺めていた。 その華奢な背中に生える美しい羽根は 片方しかない…。 「ミカ…」 僕の声に振り向いたミカは 「チャンミン…」 と、小さくつぶやくと 僕の胸に飛び込んできた。 ぎゅっと抱きしめると ミカの体から悲しみの感情が溢れた。 「チャンミン…」 「ん…?」 「今すぐ私をチャンミンのお嫁さんにして」 「ミカ…?」 僕を見上げるミカの目には涙があふれていた。 「家族が…病気なのか?ミカ」 「姉が…」 お姉さんが… そのままミカは何も言わなかったが 今すぐ天上に戻りたい気持ちであることは 痛いほどよくわかった。 もしヒョンがそんなことになったら 僕は生きた心地がしないだろう。 僕にとってヒョンは 兄弟であること以上に 魂を分かち合った同志でもあるからだ。 この世界で何百年も生きてこれたのは ヒョンがいてくれたから…。 ミカにしてもそうに違いない。 「ミカ…」 僕はミカの涙を指でそっと拭いながら言葉を続けた。 「僕がゼウス様に会うことは…叶うんだろうか?」
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