episode⑩-8

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episode⑩-8

「チャンミン…何をする気なの?!」 ミカの問いかけに僕は答えなかったけれど 心の内がわかるミカにはすぐにわかったに違いない。 「いやよ…いや…チャンミンと離れたくない…」 「僕だって…君を離したくない」 僕は泣きじゃくるミカをぎゅっと抱き寄せた。 「けれど、ミカが悲しい思いをするのは もっとイヤなんだ」 「チャンミン…」 その時、窓から突然強い光が差し込んできた。 あまりの眩しさに目を開けることもできずにいると 僕の脳裏に声が聞こえてきた。 『おまえは…チャンミン…だな?』 『あなたは…?』 『私の名はゼウス。そこにいるミカ… いや、ミカエルの長、と言えば おまえたちの世界ではわかりやすいか…?』 『ゼウス様…』 『もうわかっているだろうが、 ミカエルの姉、サリエルが病にかかっているのだ』 『はい…存じております』 『ミカエル。おまえはどうしたいのだ?』 『ゼウス様、私は…』 言いかけたミカを制して、僕は心の言葉を続けた。 『ゼウス様…どうか、ミカの… いえ、ミカエルの翼を元の状態に お戻しいただけないでしょうか?』 『チャンミン!!!』 『ほう…。では、生涯ミカエルに 会えなくなってしまってもよいのだな?』 『はい…。ミカエルがお姉さんに会えるのであれば』 「チャンミン…いやよ…」 泣き崩れるミカを抱きしめながら、 僕はせいいっぱい微笑んだ。 「いいんだ、ミカ…。こうして君と 一緒に過ごせただけで僕は本当に幸せだった。  これからも君を想って生きていける」 その瞬間、僕は胸の中に 何かが入り込んでくるような感覚に襲われた。 『ふふ…ヴァンパイアにしておくには もったいないな…』 『え…?』 ひとしきり笑う声がした後、 『よかろう、チャンミン。 その美しい心に免じて1年に1度、 ミカエルに会わせてやろう』 『本当ですか??』 『ああ。約束しよう』 『でも…ミカエルの翼をもいだりはしませんか?』 『ああ。無傷でここに来られるようにしてやる。』 『ありがとうございます…』 『ミカエル』 『はい…ゼウス様』 『チャンミンが…好きか?』 『はい…』 『その命をかけてでも…か?』 『はい。チャンミンのそばにいられるのなら この命など惜しくもありません』 『おまえの心にも偽りはないようだな』 ミカの背中に光が当たる。 光に包まれたミカの背中から美しい翼が両方現れる。 『ミカエル。おまえが年に1度 この世界に来るときにだけ天使の枠をといてやる』 『ゼウス様…では…』 『その時のみ、チャンミンは おまえに触れることができる』 『ありがとう…ございます』 『チャンミン』 『はい、ゼウス様』 『ミカエルを花嫁にしたければ…』 強い光はゆっくりと上に向かっていく。 『おまえがヴァンパイアを捨てて 天使になることだな』 はははは…と笑い声が響いた。 『また…いつの日か会おう、チャンミン』 強い光は次第に消えていった。 「チャン…ミン…」 ぽろぽろと涙を流すミカの姿も だんだんと光に包まれていく。 「ミカ…」 僕も知らないうちに泣いていた。 ミカは…天使に戻ったんだ…。 もう触れることはできない…。 「来年の今日、必ずあなたに会いに来るわ…」 「ああ。待っているよ、ミカ…」 「チャンミン…愛してる…」 「愛しているよ、ミカ…永遠(とわ)に」 ミカの姿は1筋の光になって窓から 空に向かって上がっていく。 その光の筋を 僕はいつまでも見送った。 涙はその間も止まることを知らなかった…。
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