episode⑩-9

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episode⑩-9

やっぱりミカからミカの世界を奪うことは 僕には出来なかった。 そして、自分でも気がつかないうちに こんなにも深くミカを愛していたことに 僕は自分でも驚いていた。 自分の愛する人にはいつも幸せでいて欲しいと思う。 ミカが姉を思って悲しみにくれる日々を送ることを 僕はどうしても強要することは出来なかった。 たとえこの先、生涯会えなくなったとしても ミカが幸せであれば僕は良かったのだ。 一度は叶うはずもないと諦めた愛… それが今は年に1度だけでも会えるんだ。 僕はそれで充分幸せだよ、ミカ… それにね… 僕はこの先何百年も生き続けるヴァンパイア。 そうさ…時間はたっぷりある。 僕は再び美しく咲き出したフリージアの花壇の前で 1人、ふふふ…と笑っていた。 寂しいことは否めなかったが 心は晴れやかだった。 「チャンミン? どうしたの??」 カナがやって来て、不思議そうに僕を見る。 「ああ、カナ…。何でもありません」 「変なチャンミン」 カナもくすっと笑って僕の隣に座った。 そして僕たちはいつものように、 しばらくフリージアの花を眺めた。 しばらくして、カナが口を開いた。 「ミカちゃん、行っちゃったね…」 「ええ…」 「寂しくない?チャンミン…」 「大丈夫ですよ、カナ。来年また会えるから」 「え?そうなの??そっかあ…」 カナはそれを聞いてとても嬉しそうだった。 「カナ…」 「ん?なあに??」 「ミカのこと…好きですか?」 「うん!!なんか、おねえさんみたいだし、 それに…」 「それに…?」 「ミカちゃん…チャンミンに似ているから好き」 「え…?」 カナはあっ…という顔になると、 あわてて立ち上がった。 「か、かあさまのお手伝いしてくる!!!  またね、チャンミン」 テラスに向かって走っていくカナの後姿を見ながら 僕は微笑んでいた。 カナ… 僕もミカもそんなかわいい君が大好きですよ 僕も立ち上がり、 う~ん、とひとつ伸びをした。 そして、ミカがいるであろう空を見上げた。 ミカ…もう泣かないで… 僕はこうして元気で そして、いつまでも君を…愛しているよ。 ここで待っているから…。 僕の頭上に広がる空はどこまでも澄んでいて まるで愛しい人の心にも似た美しさだった…。
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