手記:本文

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 しおりが出ていってから、僕は内田の部屋の前に立っていた。  乏しい情報をまとめると、内田が過去に関わっている何かが動き出した。それは誰かが誰かを犠牲にしてしまう可能性をはらむもの。殺人事件。  内田の過去といえば、探偵になった理由は叔父にあるという。叔父が探偵だった。だが、殺されている。  西林は僕の今までの行動は、内田の復讐の手伝いであったと言った。むろんそんな自覚はない。内田自身も探偵として様々な事件に関わってはいるが、自ら手を汚して警察の厄介になったわけではない。ともすれば、事件を解決することが復讐であったということになるのではないか。シャーロック・ホームズがモリアーティ教授の手引きした犯罪を解決し続けて、最後には共に滝へと落下したように。  僕は、ドアノブをつかんだ。  開けてしまえば、ただの扉だった。部屋は、片づいていた。傷だらけの壁と机が残されているにもかかわらず、何もなかった。  否、何もなかったというのは誇張している。机には封筒が残されていた。永井聡太郎。見知っている字が僕の名前を連ねていた。 なんとなく、予感がした。  あらゆる収納を開けてみたが、何一つ物が収められていない。本棚にすら、何も。毎日一冊は読むほどの愛読家の影はない。  封筒を机上に戻して、部屋を出た。
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