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柊がいなくなったことに気づいたのは一つ目のバンドのパフォーマンスが終わって、休憩に入った時。
「一人?」
掴まれた手の先にいたのは見知らぬ男性。柊はどこに行ったんだろう。わたしに見せたかったものってなんなんだろう。もう見せ終わったから一人で帰ったのだろうか? 知らない場所に取り残されてしまったわたしは、心細くなって思わず彼の名前を呼ぶ。
「柊は?」
「なんだ、アキフミの彼女か。芸高の制服だからそうだろうなぁとは思ったけど」
目の前が真っ白になる。アキフミ。柊の下の名前……の、彼女。誰が? わたしがか?
きょとんとした表情のわたしを余所に、彼はジィンと名乗る。たぶん芸名みたいなものなんだろう。わたしもネメと素っ気無く告げる。
「ネメちゃん。次、アキフミ出てくるぜ。最高の演奏するからよぉく聴いておけ」
「柊が?」
もう何が起こっても驚くまいと思っていたのに、その決意は呆気なく翻りそうだ。
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