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ぽふ、と彼の手のひらがわたしのあたまにふれる。なぜか、その仕草が色っぽくて、反応に困るわたし。嬉しいような恥ずかしいようなそんな気分。
「うん」
「ジャンルは違えど音楽は音楽だ。お前だってもっといい音出せるだろ。鏑木壮太の娘なんだから」
「……え」
高揚感が一気に薄れる。
鏑木壮太の娘。
確かに、わたしはピアニストの娘だ。だけど、だからってなんでここでそんなこと言うの?
高層ビルから突き落とされるような一言。柊にしてみれば特に意図して口にしたわけじゃないことくらいわかるけど……だけど。
「そんな風に、わたしのこと見てたの?」
柊は、鏑木音鳴としてわたしを見ていなかった……鏑木奏太の娘というレッテルだけ、必要としていた?
「鏑木?」
わたしの押し殺したような低い声に戸惑う柊。なぜ怒っているのか理解できないのだろう。
ステージの上では三番目のバンドが準備をはじめている。まだ夜は長い。
「わたしは」
自分の声すら聞こえなくなる。新しい活発な音楽に、かき消される。遠くなる。
柊が何か言ってる。聞きたくない。聞こえない。聞かない!
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