prologue シューベルトの妻

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 背中を向ける。  分厚い防音扉を開く。  わたしは逃げ出していた。  きらきら輝く柊たちを見て、嫉妬していたのかもしれない。  自分にはない何かを持っている彼らにしてみれば、わたしなんか単なるピアニストの娘で……考えることを放棄する。  夜闇に照らされた商店街に飛び出す。  両耳を塞ぐ。そしたらほら。  もう、何も聞こえないから。
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