epilogue わたしの愛するシューベルト

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 ――アキフミの誓いの言葉は、天国の彼に届いただろうか。  教会墓地はレモンイエローの柔らかい色合いのコスモスの花で埋め尽くされていた。八月の終わりの最終日曜日、ときおり涼しい風が吹く軽井沢はすっかり秋の気配に満ち溢れている。  澄み切った青空の下、亡き夫の墓石に青紫色のトルコギキョウを飾る。入籍後にアキフミとふたりで彼の墓参りをするのは初めてだ。  紫葉グループ総代表のアキフミの義父に結婚を認めてもらった翌日、ふたりで婚姻届にサインをし、一緒に都内の役所へ出しに行った。  そしてわたしは鏑木音鳴から紫葉音鳴になる。それでも三年間をともに過ごした須磨寺喜一のことは、いまも親しみを込めて夫と呼んでいる。アキフミはそんなわたしに嫉妬するときもあるけれど、夫にあったのが恋愛感情とは異なるものだと知っているからか、わたしの好きにさせてくれる。 「結婚式を二回行う必要はないと思うんだけど」 「いや。会社関係者にネメを見せつけるための東京での式と、軽井沢の教会でのロマンティックな式、俺は両方譲れない」 「……軽井沢はフォトウェディングでもいいんじゃない?」 「イヤだ。結婚離婚歴がなければ教会で式を行うことはなんの問題もないと牧師も言っている。俺はお前とここでも愛を誓いたいんだ」
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