prologue シューベルトの妻

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 突然天から見放されたような気もしたし、もともとあった才能が出尽くしてしまったような気もしたし、自分がやる気を完全に失っているような気もしたけれど、それでも毎日弾いていた。それは、結局自分が弾かざるおえない環境にいたからかもしれないし、そうでないかもしれない。  確かに、弾いていない自分が想像できなかったのも事実。自分からピアノがなくなったら、何も残らないとママに幼い頃から刷り込まれていたのだ。息をするように、ピアノをするのが当たり前のことだったから。  躍動感のないシークエンス、ぷつりと途切れたテヌート、何一つ気に食わない自分の音色。他人からしてみれば、たいしたことないのだろう。神経質になっているんだよ、なんて先生には言われたけれどそうじゃないのは自分が一番わかってる。  これじゃあいけないと焦るほど、泥濘に嵌ってそこから逃げ出すことができなくなるジレンマ。赤い靴を履いて踊りつづける少女のように、わたしはピアノを弾きつづける。絶え間なく動きつづける指先は、わたしの脳内からの伝達命令や心の奥底の悲鳴を無視しているかのようだった。
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