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「夕方五時に柿の木坂駅。見せたいものがある。来い」
有無を言わせない口調で、柊はわたしの顔をまじまじと見つめ、命令した。
わたしは、思わず頷いていた……観念するしかないという諦めにも似た気持ちで。
* * *
スカートを短くしろ、と、言われる。
「なんで」
「なめられるから」
夕方五時。制服のまま指定された場所へ向かったわたしを見て、わたし服姿の柊が一言。
「本当なら制服じゃない方がいいんだけど」
「一体どこ連れて行くの」
来いと言われてのこのこ来てしまったわたしもいけないのだろう。が、柊は何も言わない。
仕方ないので彼に言われたとおりに、スカートの丈を短くする。膝下だった裾が、膝上に。生足を抜ける晩秋の風が冷たい。
顔をあげると、柊の瞳とかち合う。バツが悪そうに彼が顔を背けたので、わたしは首を傾げる。
「……何見てるの」
「いや。それより鏑木、人目を気にしろ」
「どうして」
わたしの問いに、柊は応えない。そのかわり、両耳を赤くした。それから、わたしにだけ聞かせようとしてぼそりと呟いた。冗談みたいな口説き文句を。
「俺以外の男に見せたくない」
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