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高校2年に進級し、窓の外で紫陽花が濡れていた放課後。
図書委員の当番が終わって、教室に戻ると亜里沙が一人でガラス窓を叩く雨粒を眺めていた。
「おーい、帰らないのかよ。友達に置いていかれたのか? 」
「違うよ。置いていかれたんじゃなくて、好きで残っていたの」
「雨が止むのを待っていたのか? 傘が無いなら入れてやろうか?」
勇気を出して誘った俺の事を、亜里沙はジッと見つめた。
俺が亜里沙の事を好きなのを暴かれているような気がして、視線を逸らす。
「雨が止むのを待っていたわけじゃない。コータのことを待っていたの」
思いがけない言葉に亜里沙に視線を戻した。
真っ直ぐな亜里沙の瞳に囚われる。
「コータのことが、好きで一緒に帰りたくて残っていたの」
亜里沙の言葉を聞いて、心臓が跳ねた。
瞳に囚われたまま、嬉しいのに言葉が出て来ない。
ガラス窓を叩く雨の音が激しくなり、その音がやけに大きく聞こえる。
すると、亜里沙の瞳が揺れ、視線が外れる。
髪からふわりと甘い香りがし、後ろを向いたのが分かった。
「亜里沙」
やっとの思いで名前を呼ぶと亜里沙が振り返り、その瞳が濡れている。
「俺も好きだよ」
紡いだ言葉。その声は震えていた。
すると、亜里沙の瞳から大粒の涙が溢れだし、俺は涙を拭おうと手を伸ばす。
顔に手が触れると亜里沙が頬を寄せ、呟いた。
「早く言ってよ。コータのバカ」
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