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柄にもなく急に花束を抱えてきて、だから私は本当の気持ちを素直に言うことができなかった。
私はまだ高校生で、その日は授業に行かず、海に向けて自転車を走らせていた。でも、坂道は流石にきつくて、汗は吹き出してくるし、足はパンパンになるしで最悪だった。
それもこれも、全部成宮が悪い。
だって、彼女がいるのに他の人に優しくしたり、休日に二人きりで遊びに誘うのなんておかしいに決まっている。成宮の彼女である奈々も同じようなことをしていたから、二人はそれはそれでよかったのかもしれない。
でも、そしたら、私の立場はどうなるのだ。優しくされたから、自分に気があるのだと勘違いし、休日の誘いだってデートだと思い込み精一杯の気合いで臨んだ。
それがどうだ、二度、三度とデートを繰り返しても、成宮が告白してくることはない。そこまで奥手ではないはずの成宮が、言い方を変えると手を出してこないのはおかしい。そう思った私は、成宮に聞いたのだ。
「ねぇ、私達って付き合ってるの?」
「え。付き合ってないよ」
「じゃあ、どうして二人きりで会うの?」
そこまでは私も余裕綽々であった。しかし、次に成宮から発せられた言葉で、私は絶句させられることになる。
「俺、奈々と付き合ってるよ?」
「え」
それから私はどうやって帰ったのかよく覚えていない。成宮と別れた後、家に帰り、失恋ソングを聴いて、心の傷を癒してるのか、抉っているのかよく分からない行動を取っていた気はしないでもない。
それから、現在に至り、私は海岸線通りを汗水垂らしながら自転車を漕いでるのであった。後ろの方から重低音のサウンドを響かせながら走行してくる車の音が鬱陶しい。その車の音がどんどん近づいてきて、私の真横を通り過ぎる時窓が開き、私は声をかけられた。
「今日も暑いよな」
咄嗟に何と答えたら良いのか分からなかった。汗だくでメイクは崩れていることが自分でも分かっていたし、脚に張り付くショートパンツは気持ちが悪かった。
「そうだね、暑いよね」
これが、タカシとの出会いだった。付き合ったのは、ナンパがきっかけだった。
「きゃー! 冷たい!」
そして、私は今、タカシと二人であの日出会った海辺でのんきに水浴びなんかしている。あの後、ほぼやけっぱちになっていた私はタカシとその友達の圭太くんの車に乗せられ、海岸線をドライブした。
自転車は乗り捨てた。あとで回収しに行ったが、当たり前のことながら自転車は忽然と姿を消していた。
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