第一章 四畳半の日だまり

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 君は懇願した。  そりゃ誰だって楽しみにしていたアイスを食べられたら、懇願の一つや二つするだろう。僕たちはそういうふうに出来ているものだ。  それにしても、風呂上がりにそれを言うか。  まあ仕方ない。  食べた僕が全面的に悪い。名前を書いておけなんて言わない。そもそもアイスに名前なんて、溶けちゃうしね。  夜風が容赦なく吹き付ける中、近くのコンビニに行った。店員さんの声は低音で聞き返さなかったら五百円玉を出すところだった。  帰宅すると、君がいなくなっていた。  テレビでは外出前に放送されていた映画がクライマックスを迎え、少し開いていた窓もそのままだった。まるで君だけが世界から消えてしまったかのよう。  右手に持ったコンビニの袋だけが君が確かに存在していた証に思えた。君が喜ぶと思って少し高いものを買ってきたのに。
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