プロローグ

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プロローグ

 心奥深くに届く清らかな波の音――、 打ち寄せる淡い波は、やがて恥ずかし気に去りゆき再び身を寄せる様に寄り添う仕草を繰り返す。  携帯画面に映る異国の海岸を見つめ続けること十五時間。白を基調とした、しだれ桜のカバーが可愛げな骨壺を抱きしめ、いつしか涙も枯れ果てていた。 『おばあちゃん……』  声に出し、心の中で幾度なく叫んでも、もう二度とあの優しさが零れ落ちそうな、おばあちゃんの声は聞こえない。  幼い頃両親が交通事故で亡くなり、娘の様に育ててくれた祖父母。十年前に他界した祖父の元へと祖母は旅立っていった。いつか来ると分かっていたのに、私はその事実を忘れたフリをして今日まで身勝手に過ごしてきた。  炊事、洗濯、掃除、仕事……。  何一つせずに私は六帖和室の部屋に引きこもり生活。正しくは、生活ではなく、ただ、息をしていただけかもしれない。  「私……、今、いくつになったのだろう?」  壁にかかるカレンダーの西暦を見つめ、両手の指を曲げながら幼子の様に数を数える。  「う、嘘っ?! え、えっ、もう三十五……」  松島七海(ななみ)引きこもり女子 三十五歳。  今日から一人で生きていく事になりました。
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