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過去 ~ 変貌
室井と通話をした次の日。
結局あの後は朝四時まで話しており、あまりよく眠れなかった。
一限目の授業が終わり休む時間、早速今の俺にとって好都合な展開を迎える。
ガラガラガラ
教室の後ろのドアが勢いよく開き目を向けると、元チームメイトそして野球部、八組の桜井。
それに反応し、クラスの野球部の境がノリのようなでかい声で声をあげる。
「おい桜井お前なにしにきたんだよー!」
またも物理の時のように教室の前から後ろに飛び交う猿どもの会話。
「まかねいるー?」
俺が境と自分から話しに行くようなやつじゃないと知りながら、境の方に目を向け俺の下の名前を発し、俺を探す。
クラス中に聞こえるように、クラスにいる俺に聞こえるように、しかし万一いなかったときに独り言みたいになって恥をかかないようにあくまで境に尋ねているかのように。
俺は返事をしなければ見向きもしない。
まあどうせ見つかるだろうけど。
「まかね?」
当然俺と境は言葉も交わしたこともないのだからわかるはずもない。
「そう笛坂真金」
桜井がようやくフルネームで俺の名前を呼び、
「あー」
と境が言いながら記憶をたどるかのように視線を後ろの方に持って行き、俺を見た。
桜井もその視線をたどり俺を見つける。
「あー!いたいた!返事しろよー!」
「・・・」
俺は黙る。
命令口調うざ。昨日の今日で早速絡まれんのかよ。
そんなことを考えていると
「まかね~今日俺ら部活なくてさ海野と島崎と四人でボーリングいかね?」
桜井が遊びに誘ってきた。
前にボーリング得意じゃないっていったのにこうもぬけぬけと、どうせ切りのいい偶数と自分は得意で気分良くなれるから誘ってきたんだろ。しかも後ろのドアから後ろの席に話しかけてるからそんな声量いらんのに無駄に声でけえし。
慣れ慣れしく下の名前で呼ばれるのも気分悪い。
もう全てにおいて悪く感じてしまう。
そんな風に思ってたところで
・・・あ。
俺はふと考えた
俺は入学してからまだ二週間、俺は極端にクラスの連中と会話を交わしていなく、性格や人となりもあまり知られていない。そして俺は昨日自分にとって不要なやつは切ると決めた。
そこでいい機会だと思い、今回のこいつの無駄に目立ちたがり屋な性格とこの声量を利用してやることにした。そして一言・・・。
「は?いくわけないだろ」
あまり大きくないが力強くそして冷淡な口調でそう告げる、
教室は静まりかえる。桜井が勢いよくドアを開け無駄に大きな声で呼びかけてきたためクラスの連中も注目していたのだ。
それでも多少の談笑やしゃべり声は聞こえていたものの、この二週間、静かに近くの席の人たちと、しかも少量の会話しかしておらず静かに生活していた俺が発した言葉はクラス中に強烈な印象を与えた。
そしてほとんどのやつが驚き会話を止める。
そう室井でさえも小さく失笑するくらい驚いていた。
そのくらい俺の声は冷たく、そして棘溢れるものだった。
当然桜井が一番驚いている。今まで聞いたことのなかった声だったのだろう。
「えーなんでよ、いかないのー?」
それでも注目を浴びた状況で驚いたと、びびったと悟られぬよう無理矢理陽気に振る舞う。耳が赤い、目が泳ぐ。
かっすっ
そう思いながら俺はさらに答える。
「え?逆になんで行くと思ったの?俺お前とクラスメイトでもなければ友達とすら思ってないんだけど」
「・・・」
桜井は黙る。そして周りも・・・。
友達のように軽いノリで話しかけてきたやつにはっきりと「お前のことは友達じゃない」と言い張るやつは周りから見たらどう映るだろうか。
怖いと関わりたくないと思われるだろうか、まあ少なくとも女子からの印象は落ちるだろうな。ただ俺にとってはそんなことは痛手ですらない。
どのように思われるかは幾通りも考えられるが、周りから見たら、今他クラスから坊主頭の野球部と思われるやつが他クラスで大声で話し陽気に話しかけてきたところを俺ははっきりとそして冷淡に切って捨てたのだ。
そして俺は「お前のことを友達と思っていない」と極端な発言したことにより事情がよくわからずとも大抵のやつは『何かあったのだろう』と勘繰る。ましてや話しかけてきたのは入学して間もないのに他クラスでも平気で大声でしゃべるような無神経感溢れるやつ。必ずしも俺の印象ががた落ちするとは限らない。
そして何よりも確実に言えるのは、
俺がなめられるような存在となる可能性は格段に落ちたと言うこと。
さらに野球部への発言と言うことから同じクラスの野球部にも効果は多少なりとも作用してる可能性も高いというおまけ付き。
そして同時に否応にも桜井は異変に気付かされる。いつでも切り捨てられる準備も出来た。
俺にとっては突然の機会を最高の形で活かすことが出来た。
どんな気分だ桜井。自分がからかい、甘いと思ってたやつにまさかの形で大恥をかかされる気分は。
「ということで用ないなら帰ってくんない?」
俺はトドメとなる一言を発する。
「冷たいなあ・・・」
驚きと困惑、そして恥ずかしさの中最後の絞り出したかのような一言を発し、桜井は六組から去って行った。
「ははまじかよ笛先」
桜井が教室からさて言ったところで室井が少し興奮気味に話しかけてくる。
「いや物理の時あんな親切に教えてくれるし普通に話してるときも楽しいからびっくりしたわ」
室井がそんなことを言う。
しかし実際問題物理の時間一回も教えてないし、雑談だってしていない。
こいつは俺の印象を周りの操作するため良い印象となることをてきとうに言ってくれてるのだ。
まあそんなことをせずともあのやりとりが終わった後の俺への視線は思ったほど冷たくもなく怖がられているようにも見えなかったのだが。
そう考えていると
「え、笛坂だっけ、何があったの?あいつ野球部でしょ?良かったら聞かせてくれないかな。」
廊下側とは反対の窓側の席の前から三番目に当たる席の松屋晴太と言う生徒がそう話しかけてきた。
俺の話を詳しく聞けば反って印象が悪くなるなんてことはまずない。そのため話すことにデメリットはないが・・・。
「あーいいけどこの場ではあんまって感じかな・・・今日の夜ラインとかならいいよ」
俺はさっきとはうって態度を変え、少しその事情を深く気にしているように、結構深刻なことがあったかのように、あまり話すことすら気が向かないかのように振る舞うことにした。
実際事情自体は深刻だし深く気にしているのだが、それを知ってもらうために話すこと自体はむしろ乗り気でさえある。
だが・・・人の価値観は人それぞれ十人十色だ、何が深刻で、何が酷くて、何が許せなくて、何がやばいと感じるかなど人によって違う。
俺の事情も話を聞いただけではそんな深刻に感じず、やばいと感じないやつだって出てくるかもしれない。もしそういうやつがいた場合、出来事を結局そんなことかで済まされてしまう可能性はなくはないし、それにしては桜井がかわいそうなどと言った感情をもつものも出てくるかもしれない。それでは俺にとってはマイナス要素しかない。
しかし想像させることもそれはその想像をどの程度まで想像するかも十人十色。
それこそやばいの基準が高いやつほどより深刻な方向で想像する。
想像においては無限なのだ。
そして確実に言えるのはその想像において最初から大したことない想像をするやつなどいないと言うこと。
つまりマイナスはない。
その上で聞いてきたやつにのみ個人的に詳しく説明してやればいい。
そのようにわざわざ個人的に聞いてくるようなやつはもとより「深刻」という先入観を抱いてやってくる。
マイナスに働く可能性はまずない。
故にここで全員に向けてことの事情を話すのは悪手。
ここは松屋に個人的に説明する道を選んだ。
少し間を置いて松屋が
「わかった、じゃあライン交換しよ!」
そうして俺は室井の他に新しい仲間、友達と言えるようなやつが増えた。
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