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記憶 ~ 計画
あの出来事から一週間後が経過したが、クラスの野球部の連中は人が変わったように意気消沈。
普通よりも口数が減ったくらいだ。物理の時間なんか特にもはや喋ることすらない。わからない箇所は先生に聞きにいったりと優等生なみの態度に豹変。
さすがに変わりすぎだろとクラスの何人かと話していた。
まあでもうるさくならないのはいいし、変な驕りも消えたのはなおさら俺らにとってだけではなく、あいつらにとっても今後に悪い盈虚は及ぼさないだろう。
そう考えると原田のしたことはある意味教育になったとは言えなくもないが。
だが野球部の連中が静かになったのは良いが当たり前のように新たな問題が発生。
それはやはり原田。あの暴力はなんとかしなければならない。
そんなの受けたらひとたまりもないからな。
そのことであの日の夜から深夜通話ではその話で持ちきり。どうするか作を考えている最中だ。
今も昼休みで隣の席の室井と軽く話していた
「どうするかねえ」
室井も考えているようだ。
「まず何が一番いい手なのかってことだよ、最善の手は何か」
俺もそんなことを口ばさみ、さらに続ける。
「まず知りたいのがあれをほんとに野球部以外の連中にするかどうか」
肝を確認するようにいうと
「そうだけどそれ他のやつがやられないとわからなくね」
室井が続ける。
その通りなのだ。それを知るためにはもう一人誰かが関山レベルのことをし、やられるか否かを確認しないことにはそれを知り得ない。
かといって誰かがそのレベルのことを簡単に犯すとは思えないし、そもそもあのレベルじゃないとやらないとも限らないのだ。
どのレベルでやられ、どの状況下でああなるのかそれも不明なまま、あくまで関山があの出来事を犯してやられたからと言ってあれが最低ボーダーラインとは限らないのだ。
そうなると・・・
「やっぱ消すしかなくね」
俺は話し合っていた最終手段を切り出す。
「やっぱそうか、まあいつ誰がやられるかでびびって生活するのも嫌だしな。ああでもなあなんか方法ないかなあ」
「なくね、少なくとも俺らにできることは。罪のないやつを騙したりはしたくないからな」
それでも実際を知りたがる室井に対して俺がそう返すと
「・・・」
室井は黙っている。こいつまさか
「罪のないやつや関係ないやつを噓をついて騙したり、嵌めたりは俺は絶対しないからな」
危なげなことが頭に過ぎったため先に忠告しておく。
すると室井はこっちを軽く向いてニヤッとしながら
「まあ笛先ならそう言うと思ったわ。わかったよ」
そう言ってきた。
やっぱこいつは・・・。
先手を打っておいて良かった。
それにより了解もしてくれたみたいだ。
今は俺と室井でしか話していないが、とりあえず二人としての結論はでた。
「じゃあ今日の夜に松屋と黒岩にも言うか」
俺がそう言うと
「あぁごめん、今日俺黒岩にも言って黒岩も言ってきたからちょうどいいから伝えるけど、今日俺ら夜通話できない。俺は母親が帰ってくる、黒岩は知らんができないって言ってきた」
ん?昨日黒岩通話でそんなようなこと言ってたか?
少し疑問に感じられる部分もあったがまあ急なことかなんだったんだろうとテキトーに結論づけ、了承する。
「わかった」
その日はそこからこれと言った会話もなく、昼休みは終わり五、六限目とこなしあっという間に下校時刻となった。
帰り道。
今日は深夜の通話はない。
明日の通話のためにでも色々考えておくか。
俺はまずあの日の出来事を思い返す。
関山は俺らの前では胸ぐらを掴まれているところしか見ていない。
法律によると体罰は被害者の健康、心身の状態、年齢など様々な条件によって多少の差違は出るが基本的には被害者に身体的苦痛を与えた場合、それこそ殴る、蹴る等を行えば体罰として成立する。
しかし胸ぐらを掴むだけではどうだろうか。おそらくだが廊下から聞こえた、怒号と物音的に体罰のそれを一個くらいはこなしていると思うが。
まあこれに関しては明日わかるからいいか。
今考えられるのはこれくらい。
明日の通話とあいつの回答次第で決めるか。
そう考え俺はバスに乗った。
次の日の一限目と二限目の休み時間、俺は大っ嫌いな人種に話しかけにいく。
後ろの自分の席を立ち、真ん中の方へ。
そしてそいつの机の前に立つ。
そいつは俺を見る。少し睨むのような目で。
そうか、文句聞こえてたもんな。そりゃなんだと思うか。まあそんなことどうでもいいんだが。
そして俺は聞く。
「関山、お前あの日、廊下に連れて行かれて原田になにされた?」
俺が聞くと関山は少し目をそらす。
俺の真っ向からの質問が他の奴らの耳にもとまったのか、ほぼ全員が関山の答えを待つようにして耳を傾ける。
しかし関山は少し低めの声で鬱陶しそうに言う。
「笛坂だっけ?なんで?なんで知りたいの、できれば思い出したくないし、お前に言ってなんか意味あんの?」
そんなことを言ってくる。
思い出したくないって、自分が悪いんだから日々思いだして今後同じようなことを繰り返さないようにしろよ、これだから学ばない猿は・・・。
俺は心の中でそんな愚痴を呟きながらもここは我慢して理由を説明する。
「いやなんとかできねえかなあってさ」
「は?」
俺がそう言うと関山が驚いたように目を見開いてそう反応する。そして続けてこう言ってくる。
「うそつくなよお前、俺らにうぜえだのなんだの言っておいてかわいそうとか思ってねえだろ、全部聞こえてたからな」
そう反論。予想通り、だから俺は
「うん、言ってたよ、実際うるさかったしうざかった、うるさかったのは事実だろ?」
ここで遠回しに言ったり言い回しを変えてもあまり意味がない。むしろ沸騰する可能性があるから俺ははっきり肯定して言い返す。
関山は黙る。こんなはっきり言ってくるとは思わなかったんだろう。
そしてそれを見て俺は続ける。
「だがあれは問題だ、教師としてし許されない行為だし、お前も確かに悪いがあそこまでされることはないと思った。だからなんとかできねえかなって」
ここはほぼ正直に語る。
実際俺自身の感情としては関山なんぞ全然かわいそうだと思ってないのだが、客観的視点から見た場合、今回の物理の出来事だけで関山があれだけのことをされる必要はなかったし、原田の行動が教師として許されない行為というのも本当だ。
ただなんとかできねえかなというのは俺のためと言うだけだ。
もっともこいつは自分のためと思い込んでいるようだが。
そうはっきりと目を見て言い放つと少し黙り、沈黙の後
「・・・廊下に持ってかれて、倒されて怒鳴られた」
ようやく話し始める。
倒されたか、これはどうなんだ。こいつがそれで痛いと訴えれば良いのかもしれんが、そこまでついてこさせるのは俺が嫌だしめんどう。先を促す。
「他は?」
「馬乗りにされて胸ぐらを掴まれ怒鳴られた」
まじやべえな、こわ。
だが馬乗りか、これも十分成立しそうだが・・・。
もう少し聞いてみるか。さらに促す。
そして待っていた回答がくる。倒されたなら自動的にあれも行っているのでないかという考えでの元だ。
「それで・・・蹴られた」
これなら完璧、関山の感想どうのこうのではなくこの事実であいつを訴えられる。そしてそれでもし原田が抵抗し掘り下げてくるのなら関山自身が自動的に事の経緯を話さざるを得なくなる。
そうすればなおその事実と訴えはより強固のものとなる。
さらに幸いなことにこの発言はクラスほぼ全員が聞いている。
そう簡単に逃れられない。
「わかった、ありがとう」
俺は少しばかりの喜びと達成感を感じ、社交辞令を交わして席へ戻っていく。
これならいける。俺があいつから間違えてでも暴力が振るわれることもないし、あの光景をもう二度と見なくてすむ。
仮に退職や担任交代まではいかなくとも上からの注意喚起が出ればあんなことはもうできなくなるだろう。完璧すぎる。なんの隙もなく完璧。あとは勇気を持つのと手順を間違えなければ。
完璧・・・そう思い混んでいた。
いや実際にこの計画自体は完璧だったのだ。
しかしまさかあんな方向から全てが台無しになるとは。
このあと俺は思いも寄らない方向から窮地に立たされる事になる。
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