幸せとは不幸の反動の基にあり、不幸とは幸せの反動の基にある1

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記憶 ~ 崩壊  次に日今日は深い眠りにつけず夜中はちょくちょく起きては寝て起きては寝てを繰り返していた。  理由はわかっている。裏切られたこと、その真意、なぜ俺だったのかを聞きたくて仕方がなかった。  学校に着く。  室井や黒岩はもういるだろうか。来る時間がまばらな二人はいるかいないか予想しづらい。  時刻は八時二十分、登校時刻は三十分だからいてもおかしくない時間帯だが。  教室に近づく。  室井の声がする。少なくとも室井はいる。  それでも十分。  俺は勢いよく扉を開く。  ガラガラガラガラ!  「おお!笛先どうだった?」  そんな陽気な声で室井が話しかけてくる。  黒岩と松屋もいる。  黒岩と室井は楽しそうに、松屋は気まずそうにか目を逸らしている。  「なにが?」  半ば俺は答えを知っている質問を低い声で静かに投げ返す。  「はあ?わかってんだろ?殴られたかどうか聞いてんの」  だろうな。こいつはずっと言っていた。  一般性とが同じような状況に立たされたらどうなるのか知りたいと。  だから俺を使って、あくまで噓をつくことなく、俺を嵌め。殴られてもおかしくない状況に立たし、結果を見ようとした。  つまり俺は利用されたわけだ。  「殴られなかったよ」  俺は答える。  その回答に他のクラスの連中も一斉に俺を見る。  そして室井と黒岩は少しばかり驚いた表情をして  「まじで!?よかったー!なんだ野球部だけだったのかよ」  「いやあ普通に関山よりやばいことされてると思ったんだけどな」  室井と黒岩の妙にでかい声が響き渡る。  野球部の連中は納得のいかなそうな表情。  他の生徒は安堵と怪訝な目で室井と黒岩を見ていた。  まあ外から見たら俺が実験台になったように見え、怪しくも映るよな。  そして俺は俺の回答で盛り上がる室井と黒岩に聴きたいことを聞く。  「お前らさなんで?」  黒岩と室井が振り向く。そして黒岩が言う。  「え?なに?俺らにいってんの?」  「当たり前だろ」  ばかにしたような回答に俺が素早く答える。  「え、んでなにもう一回言って聞いてなかった」  噓だな。聞いているがわざとやってるこいつらは。  それでも俺は聞き直す。さっきよりもわかりやすく。  「なんで俺を嵌めたのか聞いてるの、というか俺を裏切ったのか」  すると室井が  「いらないから」  ふぅん  俺が黙ってると続けるように言ってくる。  「いらないから邪魔だから。お前のような人種が一番邪魔なんだよね。確かに賢い、頭も回る、だけどそのくせ変なところは真面目、そして怯えない、扱えない。一緒にいてやりづらい。だからお前を切ると同時に嵌めた。以上」  「随分と褒め言葉だな」  俺は本心と皮肉を混ぜたような内容の返答をする。  「褒めてるよ。実際そうだもん」  へえ、じゃあほんとに合わなくて・・・  「ただ・・・」  俺が考えていたところで室井がさらに続ける。  「ただ?」  俺は聞き返す。すると  「俺と黒岩には劣るってだけ」  なるほどな。最後にしっかり残しておいたか。  「なるほど、頭はいいが自分らよりかは劣り変なところで反抗され邪魔される存在はいらない、と」  「そう。良く分かってるじゃんさすが賢い」  そんな軽いノリで返してくる。そして続けてくる。  「あとなんならも少し教えてやるよ、一昨日通話できなかったじゃん?あれお前の省いた別のグルで通話してた」  「わざわざ三人のグルつくって?」  今更驚きもしない。俺は聞き返す。  「いや、前に話した黒岩に二人こいつら野球部のことを相談した奴らいるって言ったじゃん。その廊下側の二人」  そう言って二人を指さす。  堀江と神谷というやつらだ。  「こいつら入れた五人で、昨日の二時の後もそこで話してた」  なるほどな。だから黒岩はあんな早く切り上げたかったわけか。  俺が一人で勝手に納得していると  「どう?ショック?」  煽るように室井が言ってくる。  「別に」  俺も簡単に返す。  今更ショックでもなんでもない。  こいつらからは十分色々学べたし、切ると言うことも覚えたし、勇気を出して覚悟を持って力ある暴力を武器にするという俺が最も苦手で怖がる存在に真っ向から歯向かいものを言えたのも今となってはいい経験とさえ思っている。  これで切られて、ただなんもなく生活を過ごすことになるならそれはそれでへいぼ・・・。  そう思っていたところに室井から耳を疑うような稀少であろう発言が飛んできた。  「あっそう。あとさ話変わるけど俺らお前のことこれからいじめるから、そこんとこよろしく」  室井が返事と共にそう言ってくる。  ははっ  心の中で思わず失笑してしまう。  いじめることをいじめる相手にしかもはっきりといじめるなんて明言するやつがこの世にどれくらいいるだろうか。  意外に多かったりするのか。  俺は室井の言葉に何も帰さずに室井を見ながら思う。  俺は感心するよ。やっぱりお前は普通じゃない。  お前もある意味怪物だ。  出会えて良かったと思うよ。  そんな感心の思いを室井に寄せながら俺は同時に考える。  俺はまた同じ事を繰り返したのか。  あの時と同じ事を・・・。  いや、繰り返したと言っても今回ばかりは少し違うか。  これまでとは違ってこいつらに裏切られたことが経験として意味を成したと言うよりはこいつらと過ごした、会話した時間の方が経験となり力となったと言えよう。  関わった分だけ意味があった。  それだけでも今までとは明らかに違う。  そして最後の最後にメインディッシュと言えるようなトドメの収穫。  このときに俺は本当に他人を言うものを心の底から信じることをやめ、親密になることを避けようと決心できた。  どんな形だろうとどんなやつだろうと親密になってはいけない。  こいつの室井のあからさまな行動と言葉に俺は心の底から気付かされた。  俺は今からいじめる宣言を受けているのに思い浮かぶのはいままさにいじめると真っ向から宣言してきた張本人室井。  こいつと出会えて良かったと思うことだけだ。  そして俺はこの切られた境遇さえも今は収穫とさえ思ってしまっている。  いよいよ本気で壊れたかな。  俺はそんな風に考える。  いやとっくに壊れてたのかもしれない。  だがいつ壊れていたかなんてわからないし今の俺にとってはどうでもいい。  ただ一つ勘違いしてほしくないのは俺は決していじめられてもいいなんて微塵も思ってないしこいつらの遊び道具になるつもりも毛頭ないということ。  そう思いながら俺は言う。  「そうか」  室井はこちらを見る。  しかし俺はこれ以上なにも言わない。  黒岩が何か言っていたが耳に入ってこない。  クラスの連中が俺に向けている哀れみの目も気にならない。  俺は一貫して心の中で室井に問いかけている。  不思議だよ室井。  少し前まではあんなに周りが気になっていたのに。 中学の時やられていたことの半分は惨めな自分が見られるのが嫌だって思うくらい気にしていたのに。  どうしてか今はなんとも思わない。  不思議だ。本当に不思議。自分が自分じゃないみたいだ。 そして更に自分でもびっくりするのが・・・君らを怖いともなんとも思わないんだ。  どうしてだろうね。どうしてだと思う。  俺にも良く分からん。  ただ強いてその理由、根源、思い当たる節をあげるとすればそれは・・・。  君は俺に色々与えすぎたみたいだよ。  そうして心の中での問いかけが終わり俺は自分の席へと向かう。 いつも通りの室井の隣の席へ。  今日からまた新しい、世界の違う学校生活が始まる。  キーンコーンカーンコーン。  ガラガラガラガラ  チャイムと同時に扉が開かれ原田が入ってくる。  人間へと生れ変わった原田が荷物を持ち教団の前に立って一言  「号令!」      そしてそれから一年、俺はいじめられることなく学校生活を送り無事二年生となった。
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