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四 邂逅
ガラガラガラガラ
俺が自分の記憶を思い返すのが終わるとほぼ同時に教室のドアが開かれる。
あれからまだ二十分ほどしか経っていない。
早い生徒は普段こんな早く来てるのかと思い目を向けるとその俺を除くと一番乗りの生徒はバスケ部の安野尊だった。
「あ、笛先おはよう」
俺を見るなり安野がそう挨拶してくる。
「おはよう」
俺も返す。
「今日は珍しく早いね。笛先なんて特にいつもあんなギリギリなのに」
安野はさらに続けてそう言ってくる。
「毎回見てるみたいな言い方だなそれ」
「い、いや普通に遅いから目立つんだよ」
俺が少し引っかかった部分を突っ込むと安野は少し慌てながら否定してきた。
「そうか。まあいいや。俺は今日たまたま早く起きたから。安野はなんでこんな早いんだ。いつも?」
俺もどうせなら聞いてみることにする。
「いや、いつもはもう少し早いよ。朝練があるからね。そんで今日もそれで来たんだけど俺昨日早く寝ちゃって、今日寝坊気味になって急いできたら、今日顧問がテスト作るとかで朝練なくなったみたいなんだけど俺そのメール見ずに来ちゃってさ、どうせならと思って少し自主練してきた」
「ほーん」
だいぶドジだな。でもそれでしっかり練習できるところは素直にすごいと思う。
「バスケ好きなのか?」
シンプルな質問。
「好きだよ。バスケ自体は大好きなんだ」
・・・・・。
「自体は?他に嫌なことでも?」
俺がまたも聞くと
安野ははっとし。
「もういちいち拾わなくていいから」
そう言ってくる。
「お前がいったんだろ・・・」
「たしかにそうだね。でも今はこれ以上掘り下げようとしないでほしい」
俺が返すと、安野がそういう。
別に興味ないしもとより掘り下げるまでするつもりもなかったんだが。
「了解」
俺は引く。
そして話すこともなくなり教室の中に男子二人、沈黙が流れる。
俺はやることもないのでてきとーに携帯でも眺めていると
「あと、この前はありがとね」
沈黙を切るように安野がそう礼を言ってくる。
何のことかは大体察しはつくが俺は敢えて一応聞き返す。
「この前?」
「そう、この前の昼休みの時、俺が恋バナの話しで井池に問い詰められてた時、笛坂が逆に井池に突っ込んでくれたからそこからなんか話し変わってそのままその質問攻めも終わったんだよ」
「あーあん時か、なんか知んないけど井池怒ってたもんな。俺はよくわからんけどチラッと会話が聞こえてきて思ったことがあったから言っただけだよ。まあそれでも結果的にあの発言が良い方向に働いてたならよかった」
知ってるが、自然に返答。
「いやあれまじで助かったよ。まあ実際恋バナじゃないんだけどね。全然井池たちが思ってるようなことじゃないけどあれは言いたくなかった。だからありがとう」
想像してた以上に話しかけてくるし、感謝されてるみたいだ。善意なんか微塵もなかったんだけどな。
それか単に沈黙が苦手なタイプで話しのネタを作ってるだけなのかもしれないが。
そうしてテキトーに会話をしていると、
ガラガラガラガラ
「おお安野に笛坂じゃん。早くね二人とも」
今崎が登校してきた。
「俺は今日部活あると思ったんだけどなくてさ、少し練習してから教室きた。笛坂は朝早く目が覚めたんだって」
「安野やっぱドジだなあ」
「違うよ!昨日早く寝すぎてメール見てなかったんだって!」
今崎も俺と同じことを感じたようでそれを口に出す。
安野はそれを中途半端な説明で弁解しようとするが
「だからそれがドジだっていうの」
まあそうなるわな。
「ええなんでよ、まあいーやー」
反論の予知もなく返され、安野も諦めたようにそんな反応を見せる。
「そういや一週間後テストかよ、あーやだーー」
今崎が急に話題の方向を変え、嘆き出す。
そうもうすぐ期末テスト、今日は二十六日木曜日でテストは一週間後の木曜日の七月三日から土日の休み二日間を挟んだ木金、月火の四日間で行われる。期末テストで実技の教科なども入ってくるため中間に比べ科目数も多い。
「そうなんだよなあ俺もやばい、特に古典と英語が全くわからん」
安野も同じように嘆く。
「笛先は?今回もどうせ余裕なんでしょ」
今崎が視線を俺に向け言ってくる。
「別に余裕かどうかは知らんけど普通に大丈夫」
無難な本心の回答。
「いいなあ。俺もそんな頭がほしいよ」
「ね、笛先くらいあれば俺も顧問に怒られなくて済むんだけどね」
俺の回答に今崎と安野が羨ましそうに反応する。
確かに俺は一年の頃からテストでそれなりの点数を取ってきた。
そして二年に上がってから行われた中間テストも。
この学校は学年で全教科総合点数の高い上位二十名が学年の掲示板に張り出される仕組み。前回俺は六位、クラスでは二位。そのためテストの点数はそれなりに認知されているらしい。
クラスの一位は読書マニアと呼ばれている村上愛菜という女子。学年では二位だ。確かに常に本を読んでいる。あれは言われてもしょうがない。
そんな村上や俺を羨ましがる気持ちはわからなくはない。
しかし俺は一つ納得のいかない認識に対して二人が理解できなさそうな少しひねった言い回しで一言言っておくことにした。
「別にこの学校のテストの点数が、問題を解けることが、解けないことが、その当人の力量の全てを表してるとは限らないけどね」
羨ましがる二人に俺がそう言うと
「「え?」」
「どゆこと?」
二人そろってほぼ同じ反応。
ほらわからん。
まあいいけどさ。
「いやなんでもないよ。俺は朝早く起きすぎたせいかここに来て眠気が来たからホームルームまで寝る。じゃ」
そう言って俺は机に腕を置き、枕代わりにしてそこに顔を伏せる。
別に対して眠くはないのだが話すのが面倒になってきたのと今のに対して詳しく説明を求められようもんならさらに面倒なため切り上げることにした。
成り行き上話してただけでそもそもこの二人と話したいとも大して思わん。
まあこのまま寝れないこともなさそうだけど。
俺はそうぼーっとテキトーに何かを考えているうちにいつの間にか寝むりに落ちていた。
キーンコーンカーンコーン
今日も六限目の授業が終わり帰りの支度を始める。
テスト前授業と言うこともあり今日は比較的自習が多かったため六時間のうち二時間くらいの授業は睡眠に力を入れた。
すっきりした。
基本的に俺はテスト勉強は学校の時間にやらずに家でやる。
理由は単純学校では集中できないからだ。
家でもそんなに長い時間はやらないが逆に家だからこそ短い時間で済ませられる。
その後担任が来てホームルームがさっと終わり下校の時間になる。
時刻は午後三時三十分。
時計を見ながら今日は何をしようかとでも考えていると、
「笛先って今日この後暇?」
そんな俺を呼ぶ声。
井池には自分のテスト勉強があるってのと疲れたからってこともあり勉強会は断っている。井池ではない。
誰かと思って振り向くと、そこには今日朝話した安野尊が携帯を片手に立っていた。。
「暇と言えば今だけど暇じゃないと言えば暇じゃない」
俺がなんだろうと思いつつもそうよくわからない回答をすると、
「えぇ何それ、もし少し時間があるならこの後少しご飯行かない?」
そんな誘いが来た。もちろん俺は
「いかない」
断る。
「え?」
俺の回答にびっくりしたのか安野が止まる。
そしてそれからなおも黙っている安野に俺はもう一度同じ答えを投げかける。
「だからいかないって」
俺がそう言い直すとそろそろ理解が追いついたのか安野が少し大きめな声で反応してくる。
「えぇなんでよ!今暇と言えば暇って言ったじゃん!」
「暇じゃないと言えば暇じゃないとも言ったんだけど」
都合のいい抜き取りに俺はすぐ答える。
「ええ・・・」
困る安野に俺はさらに続ける。
「それに仮に安野の言うように暇だとしても、俺は別に安野と一緒にご飯を食べにとは思わない、だからどちらにしても行かない。自分が誘って相手が暇なら必ず誘いに乗ってもらえるって言う前提条件で思い込むのやめな。」
俺は厳しめにそういう。これで諦めるか、もしくは気分を害して行く気はなくなるだろう。
「・・・・・」
安野は黙る。
結構効いたかな。まあどのみちもう帰って良さそうだ。
「まあそいういことだから、じゃあね」
そう言って帰ろうとすると
「ごめん」
帰ろうとする俺の背に向けて安野が謝罪をしてくる。
「確かに笛先の言うとおり暇なら行ってくれると、誘いに乗ってくれると勘違いしてた部分がある。笛先のことも考えずに押し通そうとしてごめん」
そんな風に丁寧に。
まあこれに無視するのは可哀想か。
「まあ別にそれはいいよ、傷ついたとかそういうのじゃないから」
「でもお願い!今回だけは笛先に聞いてほしい話しがあるんだ・・・」
安野は食い下がる。
「なんで俺に」
「他の何人かにも話したんだけど駄目だったことなんだ。ただわかんないけど笛先に話せばなんか他の人とは違う回答をくれるんじゃないかなって。一回でいいから聞いてほしいなって」
そんな風に言ってくる。
「頼む、ほんの少しでいい、わからない、言い回答が与えられないって思ったらそこでおしまいでもいい、だから入り口だけでも・・・」
そこまで言われると少しは興味も沸かなくはないが、それでもまだ足が重い。
「どうしても?」
「どうしても」
「時間は」
「話してみてからじゃないとなかなか何とも言えないけどけどそんな長く時間は取らせないつもり」
そう懇願される。
条件に乗れば付き合うか。
「その食べに行った先での食べた分の三分の一、その分奢ってくれるなら相談に乗る」
俺はそう条件を提示する。
「え?」
俺の発した答えが予想外だったのか安野は素っ頓狂な声をあげる。
無理なら聞かない。
どんなに必死でどんなに下手に出てお願いしてきても俺は騙されない。
基本人なんかそんなもん。窮地に立たされればどんな振る舞いをしてでも縋ろうとする。
肝心な部分が出るのは問題が解決した後で、最中にどんなに必死で、礼儀正しく、話しがわかるやつだろうと俺は甘やかさない。
だから安野もこの条件を飲めないのなら容赦なく断る。
そう考えていると
「そんなんでいいなら全然!もちろん!三分の一奢るよ」
安野は呆気なく条件を飲む。
意外に飲むやつ多いんだな。
「わかった。行く店は決めていいよ」
俺は少しばかり驚きながらも承諾し、店の決定権も渡す。
決めるのがめんどくさいからだ。
「じゃあ鞄持ってくるね!」
安野は安堵と嬉しさ両方の表情を向けて俺にそういい、自分の席へ走って行った。
よかったぁ・・・。
俺は今猛烈に安心している。
俺は二年生になった時から気になっていた男子生徒がいる。
もちろんあっち系の気になるではなくて、話してみたいとか友達になりたいとかそーゆー意味だ。
普通なら同性のクラスメイトに特にあまり話してもいないのにそんな感情は湧かないのだが彼は少し違った。
容姿はぱっちり二重のどちらかと言われると男子の中でもかわいい系、髪は目ぐらいまである少し長め、部活には入っていなく帰宅部。
頭はいい。前回の中間テストでも学年で六番と成績は学年でもトップクラス。
見たところクラスでの口数は多い方じゃないけど、話しかけられたらしっかりコミュニケーションが取れるタイプ。
ここまでだと少し顔がよく勉強がかなり出来る生徒で少なくとも同性の俺が気にする箇所は特に見られない。
しかし俺が彼に惹かれたのはなんというか、びびらない、臆しているところを見たことがない、誰と話すときでも、どの先生に指名されたときでも。とにかく彼のびびってる姿、慌てている姿を少なくとも俺は見たことがないのだ。
自身があるというかそういう感じがピンピン出ている。
しかし意図的に出しているそれじゃない。
寧ろ隠そうとさえしているか。
そんなところに目が行った。
あとはやはり普通じゃない。
ご飯に誘ったら一発目は盛大に断られ、しかも暇なら誰でも来てくれると思わない方がいいと正論まで言われてしまった。それでもめげずにお願いした結果やっとのことで同行してくれるようになったのが驕り付きの条件だ。
笑っちゃうよな。
普通いる?クラスメイトの同性にご飯誘われて仲のいい知れた仲でもないのに一発目から三分の一奢るなら行くって言う人。
少なくとも向こうは全く仲良くする気ないじゃん。
でもそれでもなんとかして連れてこられてほんとに良かった。
こんな彼だからこそ俺がしっくりくる答えをくれるかもしれない、するべき正しい答えを。
俺たちは今学校の近くにある某ファミレスにいる。
俺が選んだんだけど地味に高いんだよなあ・・・。
彼の食べる量次第によっては財布の中身かなり飛ぶぞ。
まあそれでもってお願いしたのは俺だし今日ばかりは気にしなくていいか。
「これもおいしそうだなあ、結構高いけどいいか。全部の品三割引きだしな」
来たからにはってことなのか意外に食べる来満々の彼。
結構頼んでいる。
まじで結構飛びそう・・・。
全く遠慮ない。
「俺決めたわ。安野は?」
「俺はまだいいかな。ドリンクバーだけで」
「了解、んじゃ定員さん呼ぶよ」
そう言って最初の俺の目的を忘れたかのようにメニューを目を落とし、頼むことに夢中になっている生徒がそう言う。
今俺の向かいに座ってる少し変わったクラスメイト、笛坂真金君だ。
「ローストビーフは久々に食べた。これやっぱり美味しい」
自分の頼んだ品を着々と食べ進めながら彼がそう言う。
もう完全に食べることに夢中になってる。
なんかき切り出しづらいな・・・。
すごく美味しそうに食べてるし。
いやいやこっちは三分の一奢るんだ。
いわば金を払って相談を申し込んだようなもの。
遠慮してどうする。
そう思い、意を決して俺は夢中になってる笛坂君に声をかける。
「あのーそろそろ相談いいかな?」
「だめ食べ終わってから」
「はい・・・」
だめだった。
まあ待つか。
彼が食べ終わったら俺が品を頼んで話しを聞いてもらおう。
あれから十五分ほどして
「ごちそうさまでした」
ようやく彼が食べ終わった。
あれからの追加注文やデザートは頼まず、最初に頼んだものだけだったので思ったより時間はかからなかった。
彼は今ドリンクバーのカルピスを飲みながら食休みか、ぼーっと外を眺めている。
その間に俺も軽く注文する。
定員さんが注文を取り終え帰っていったところで
「そんで?」
彼が口を開く。
いきなりのことで思わず、え?と聞き返してしまう。
「相談てのは」
あー、まさか彼から聞きに来るとは思ってなかったため少しびっくりした。
「うん、そのことなんだけど・・・」
今まで四人に相談してきたが三人が同じ部で一人は幼なじみと言った気心の知れた人たち。こうしてちょっと慣れてない人に話すのは結構緊張するものだ。
そう思いながらもせっかく連れてきたんだと思い、意を決してその内容を言う。
「あのさ、実は・・・好きな人ができたんだ!!」
思った以上に声が大きくなってしまった。
恥ずかしい。
しかし彼からの反応がない。
緊張で目を逸らしていたため言った時は彼の表情を見てない。
あれ聞いてなかったのかな。
反応がないためそう思い恐る恐る彼の方を見ると・・・
彼はポカーンというか拍子抜けした表情かで少し目を見開き、そして言った。
「え・・・だからなに過ぎるんだけど」
やばいミスった!緊張のあまり肝心なところを全然言ってない!
「お前そんなことを俺に・・・」
「ちがうちがうちがう!!聞いてほしいのはこの後で!」
俺は必死に弁明に走った。
確かにそうだ。これが普通の友達だったり気心の知れた人ならこの一言で食いついてくるかも知れないが相手は笛先君、気心の知れた仲でもないしよりによって彼からしたらほんとにだからどうしたのレベルだ。
しっかり何を相談したいのか言わないと!
「あのその好きな人は女子バスケ部の先輩で、普通に話したりしたことはあるんだけど、距離というかそういうのは縮められなくて、でももう七月でこの夏休み中に先輩は引退。本格的に受験勉強も始まるから話す機会も一気に減っちゃうし・・・
だからその、その前に距離を縮めたいというか出来れば少しでも特別な存在になりたいなって思って」
俺は一気に説明した。
「いやそれでもなおさらなんで俺に。それなら同じバスケ部の先輩やチームメイトに相談した方がはやいだろ」
彼がそう言ってくる。確かにその通りだ。でも
「それじゃだめなんだ。確かに同い年の部の人たちには相談した。その人たちは応援してくれた。でもなんというか面白がっているのか、本気なのかわからないけど一貫してなら告白すればいいじゃんしか言わなくて、でもそれじゃ駄目な気がして」
「そう思う理由は」
彼が聞いてくる。
「その先輩の名前桃波桜先輩って言うんだけど、知ってる?あのこの前全校集会で放送委員会からのお知らせで話してた人」
「いや知らん」
「そっか、んでその人すごくモテるんだよ。男子バスケ部の三年生の先輩の何人からも告白されたらしいし、クラスの人とか」
「ほうほうすごいね」
「でも桃波先輩は全員断ってて、その中には普通にかっこいいバスケのうまい先輩とかいたんだけど断られてて、だから真っ向から直球に告白してもだめなのかなって、いわば直感みたいなもの。それにあと三年生に言えない理由も今言ったことに加えて俺みたいにバスケも大してうまくない、見た目もぱっとしない俺が桃波先輩のこと好きだなんて言ったら絶対三年生の人たち応援してくれるどころか反感買うだろうなって思って・・・」
俺がある程度説明すると
「なんで安野はそんなに情報知ってるの?告白した人から断られた人まで」
そうだ。それの説明も必要か。
「そうそう、それなんだけどさこの学年の女子に竹下みなみって人がいてその人はバスケ部じゃないんだけどその桃波先輩と家が近いとかで昔から結構仲がいいらしくて、俺はみなみとは親が高校時代の同級生ってことで家は近くないし小中も違ったけどよく親が互いの家に行き来してて小さい頃から遊んでて仲が良かった。そしたら高校一緒になってラインとかたまに話したときにみなみからその桃波先輩の情報もらってた。ちなみにみなみには相談してる、当たり前だけど。」
「へえ、竹下みなみか・・・」
俺が説明すると笛先が変わった反応をした。
「ん?みなみがどうかしたの?」
俺が聞くと
「いや別に。というかじゃあそもそもお前も無理なんじゃね」
話しを戻したかと思えば笛先は突き刺さる一言を容赦なくぶつけてくる。
ただ話はこれで終わりじゃない。
「でもね!俺さっき話したことはあるって言ったけど桃波先輩とは結構仲いい方なんだよ!俺が前に部活で一人で体育館で練習して片付けしてたら先輩も残ってたらしくてその時から結構話すようになったんだ」
「ははっなかなか運命的な出会いじゃないか」
彼は少し笑いながらそう言ってくる。
「笑わないでよ。でもそうなんだ。もともと見た目は美人だなって思ってて話しかけてくれたときはすごいうれしくて、そしたら性格もすごく良くてそれからも会ったらちょくちょく話すようになって・・・」
「恋に落ちてしまった、と」
笛先君が最後を締めくくるように言う。
「そう・・・」
「ふーん」
微妙な反応、沈黙。
・・・。
少し経って彼が口を開き聞いてくる。
「今の話しで出会いのきっかけ、好きになった理由、三年生に相談しない理由、安易に告白しない理由それらは全てわかった。でも改めて聞きたい。なんで俺だ」
ここは真っ直ぐ正直に答えよう。
「君なら他とは違う、少し変わった、しっくりくる意見を言ってくれると思ったから」
「なんで」
「直感」
彼は黙る。
正直に全てをさらけ出した。これが全て水疱に帰すかも知れない。その可能性は大いにある。わからないと言われてしまえばそこまで単に俺は今日彼にこのファミレスを三割引きでごちそうしただけになる。
それでも奢ることを約束してまで俺は彼に意見を聞いてみたいと思った。
「ふーーん」
彼は外を見ながらいつもと同じ反応。
だが何かを考えてくれている様子はある。
すると少しして彼はこっちを向いて
「俺恋愛経験ないぞ」
「いいよ、予想はしてた」
「随分失礼なやつだ」
「ごめん」
「まあいいよ、したいと思わんから」
俺が失礼に対して謝ると彼っぽい答えを返してくる。
そしていくつかの質問が始まる。
「遊びに行ったことは?二人で」
「二人で?いやないよ。というかプライベートでは大人数でも遊んだことはないよ。そもそも男女別の部活だし、学年も違うしね」
俺が答える。
気にもとめない様子ですぐ次の質問。
「そうか、連絡先は交換してるの?」
「してるよ、初めて喋った日にライン交換した」
「それから連絡は取る?」
「意外と取ってきた、と言うか個通も何度かしたことある」
ここで一旦笛先君の質問が止まる。
そしてまた外を眺めて二分ほど
そしてこっちを向いて、ようやく口を開く。
「あくまで俺の考え、今まで見てきた恋愛、聞いてきた恋愛からの総じて生み出した考えでしかものを言えないが、それでもいいんだな?」
何かのアドバイスらしきものを思いついたような彼が俺にそう言ってくる。
俺はうれしくて、もちろんと即承諾する。
どんなアドバイスをくれるのか、どんなことを言ってくれるのか、なんというかすごく楽しみでありそれと同時にドキドキもした。
そんな中彼が言葉を発す。短い一言。
「ならまずその桃波先輩にラインでも電話でもいいから好きだと伝えろ」
・・・え?
どんな変わったアドバイスが来るのかと思ったら言うことは部活の奴らと同じようなこと。
俺は耳を疑った。どういうこと?笛坂は話聞いてなかったのか?
「え、今なんて?」
もう一度聞いてみる。
「だからまず好きだと伝えろって」
同じだ。俺の聞き間違えではなかった。
俺はがっかりした。そしてそれから少しして少しずつ怒りも湧いてきた。
それって告白しろってこと?
笛坂はそれ以上何も言わない。
なんで?
なんのために俺はここまでして・・・。
拍子抜けだ。俺は奢らせるためだけに騙されたのか。
こんなやつに頼った俺がばかだったのか。
俺は苛立つ。
俺が怒ってもこいつは全く動揺もしないだろうが今はその全てが無駄だった、騙されたことの苛立ちをせめてぶつけないと収まらない。
俺は口を開く
「なんなんだよ、話聞いてなかったのかよ。それじゃだめだから違う人に、少し変わった君に相談しようと思ったのに・・・なんで同じことしか」
そこまで言って俺はもう言う気も失せた。
帰ろう。お金だけ渡して。もういても無駄だ。
そう思い荷物をまとめ、帰ろうとすると
「なに勘違いしてんだ?」
「え?」
笛先がそんなことを言ってきた。
「勘違いって、だって好きだと伝えろって=告白しろってことでしょ」
俺は意味がわからなかった。
「安野、お前は恋愛での告白とはなんだと思っている」
帰ろうと席を立つ俺に座ったまま笛先は問いかけてくる。
俺は立ったままその問いに今まで認識していたことをありのままで答える。
「好きですと伝えて付き合ってくださいと申し込む行為・・・」
質問の意図がわからない。俺は困惑する。
すると
「それが間違いなんだよ」
「え?」
違う?今のが違うの?告白ってそう言うもんじゃないの。中学の頃からみんなそうしてたし、俺だってそうして付き合ってきた。恋愛アニメとか漫画だって。
「違うってなにが・・・」
俺がありったけの今の思いを短く言葉にして発すると
「なんで告白することが付き合ってくださいって言うことなんだよ」
そんなことを言ってくる、
だって、だってそれは
「だってそれはそうでしょ、好きですって言うのは付き合ってくださいと同じ意味で・・・」
「だからなんでそうなるんだって。誰がそう決めたんだよ」
言葉を遮られ俺は固まる。なんかなんかが。
そんな固まってる俺に笛坂は続ける。
「誰がいつどこでどのような権利があって告白=付き合ってくださいと同義だと決めたんですか。確かに告白という言葉の意味には心に秘めていたことをありのまま打ち明けるって意味がある。だから好きと伝えるのは確かに告白だよ。お前の回答もそこまでは会ってるよ。でもさそこから相手にお付き合いを申し込むことがなんで告白なんだ?相手も自分のことが好きと、両思いってのが確信できてるならそれでいいよ、でもさ俺ずーーーっと思ってたけど自分のことが好きかどうかわからない、ましてや片思いとわかっているにもかかわらずどうしてお前らみんなは馬鹿みたいに相手に自分といることをいきなりお願いしにかかる?おかしいとおもわないか?」
俺は立っていた腰を下ろす。荷物も置く。笛坂を見る。笛坂はまだ喋る。
「考えてみろよ、結婚するとき、いきなり出会った人に結婚してくださいって言うやつがいるか?まず付き合って、共に時間を過ごしお互いを知り、日々お互いの気持ちを確認し合ってそれでそのうちこの人と一生をを共にしたいと思い、そこからさらに相手の気持ちを確かめ、ようやく確信と言えるようなものが出来てから結婚を申し込むんだぞ。一生を共にすることを」
「お前らは何を勘違いしている。念のためここに来て一言聞いておくよ、桃波先輩がお雨のことを好きだという確信はあるのか?」
俺は聞かれ、半ば少し萎縮しながら
「いや多分片思い、というかほぼ」
そう答える。
「そうだよな、確信があったらわざわざそんな悩まないし多くの人に相談なんかしないもんな」
その通りだ。
「なあ安野」
笛先が俺の顔をのぞき込み、諭すように言う。
「片思いの場合は恋愛も結婚の時と似たような手順で進めていくべきだと俺は思うんだよ。ただ一つ絶対的に違うのは遠回しなやり方や言い回しで相手に自分の好意に気付かれては駄目だと言うことだ。特に相手が女性の方だったら警戒して逆に距離置かれる可能性もあるからな」
そしてなお黙っている俺に笛坂は続ける。
「それを踏まえた上でここから俺の本格的なアドバイスだ。だめだと思ったら実行しなくていい。いいか?」
「わかった」
「まずお前は桃波先輩に好きと伝える、ただし付き合ってとは言わない、自分と時間を共にすることを強要しない。そのために好きと伝えた後は今は付き合ってとかじゃなくてそろそろ受験とかで忙しくなって話す機会とかも減ってしまうと思い気持ちだけ伝えておきたかったですという、まずこれをする意味として最も重要なのは選択権を相手に与えておくことだ。桃波先輩視点からして安野君からは好意を伝えられている、あとは言ってしまえば自分次第では付き合うことが出来る状況、と。こうして相手に選択権を与え同時に意識させられる可能性のある手段も打っておく。そして受験とは言っても少しの通話とかメッセージのやりとりは出来るはずだ。そこでもし伝えたときに先輩が困ったり嫌そうな顔をしなかったら次はこうお願いしろ、ただこういうことなので先輩とは話したいなと思うこともあると思うので俺が思って先輩も時間が空いていたり、都合がいいときとかあったらその時は電話かけたり、大した用がなくても連絡していいですか、と」
「お前が好きと伝え先輩が困らなかった時はおそらくそれもおーけー出してくれるはずだ。そして言ったことを全て実行し桃波先輩が許可を出してくれた場合、お前は晴れて先輩への無料連絡券を手に入れることが出来る。だってそうだろ。もう好きだと伝えてるんだから。そして先輩も困らず警戒もしなかったなら遠回しに理由を付けて連絡せずとも、電話したいです、話したいですの一言で相手はわかってくれる。ああ好きだからしたいとき言うって言ってたもんねって。変な警戒もされることがない。あとはお前の力とやり方次第で電話越しだろうが画面越しだろうが共に接してる時間を多く作り出すことで、もし桃波先輩がお前といるのが楽しい、安心するとか思ってくれるようになり、やがて好意を持ってくれるようになればその時はお前の望みが叶う瞬間じゃないのか。ただまあそもそもがそれで嫌がられたらおしまいだし俺の言ったことも絶対じゃないからあれだけどな。あとは注意ポイントとかもあるがそれは敢えて言わない。これくらいは自分で考えてやれないとこれから先もうまくいかん。俺からのアドバイスは以上だ。なにか感想は?」
全てが終わり笛坂が俺に感想を求めてくる。
俺は言葉が出なかった。
なんなんだこの人は。
驚くべき点がありすぎてまとまらない。
まず驚いたのは目の向けどころだ。
確かに俺は告白という意味を少しはき違えていた。笛先の言うとおりだ。別に無理に付き合ってとその場で言う必要ないのだ。みんあがそうしてきたからそれが世間一般的だからと言うことで俺もそうしてきた、というか大体の人がそうだろう。でも笛先は違った、恋愛経験がないのに外部の情報からそのおかしさに気付き、ここまでの入理論を組み立てて俺にぶつけてきた。
俺にした今後のアドバイスも確かに絶対正解とは限らない。ただ俺が驚くのはやはりどうぢてここまで頭が回るのかって事だ。相談されてからすぐに。
俺の想像の遙か上を行くアドバイス。飯代全額奢ってもいいとさえ思える量のアドバイスをしてもらった。
なんなんだよ笛先。お前には何が見えてんだよ。どうしてそんな所に目が行く。
俺は怖かった。
俺はやっとの思いで一言こう発した。
「ほんとに恋愛経験ゼロなの?」
「もちろん」
ほんとかよ・・・。
じゃあなんでそんな頭が回るんだよ・・・。
まあいいかそれは。
俺が黙ってると。
「お前全然頼んだもの食べてないじゃん。いつきたのか覚えてねえや。話すのに夢中になってて」
俺も気がつかなかった。聞くのに夢中で。
「まあいいや、俺は先帰るよ。七割分はここに置いとく」
「え。帰るの」
ここでなんとも思わず一人置いていこうと出来るところとかほんと変わってんなあと思って俺が聞くと、
「もう用件は済んだんだからいいだろ」
まあ確かに。あれだけのことを話してもらって三分の一でいいなら安いもんだしそれくらい良いか。
そう思い俺は
「わかった。今日はありがとう」
お礼をする。もっと払うべき分のだ。
「おう、あと安野、言い忘れてた」
「ん?」
笛坂が帰り際にこっちを向いてそんなことを言い出すので何かと思って聞くと
「相手が自分のことを好きじゃなくともお試しと言うことで付き合ってくれる場合は確かに存在する。しかしそれには元々無意識的に好きになり告白した側と、告白され付き合った側で仮に好きになったとしても意識的に好きになったという違いで差が生じる。そんな恋愛に本物はないと俺は思っている。お前が今回の恋を偽物でもいいと思っているなら今日の話は無駄だったことになるな。そうじゃないことを祈るよ。じゃあね」
そう言い残して笛先は帰って行った。
全く、いざというときに聞こうと思ってたことまで精算されちゃったよ。
ほんとに隙がない。
偽物で良いわけないでしょ。
俺は掴むよ頑張って。
今回の話を活かしてさ。
金を払ってまで聞きたがった俺の行動にかけて。
ありがとう笛先。
縋ってでも聞けて良かったよ。
そう心の中でもう一度俺はお礼を言い、一人で残りの晩餐をゆっくりと口にしていった。
はあ疲れた。
俺は帰路を歩きながらいつもに比べ異様に長く感じ、疲れた一日を思い返していた。
嫌な夢を見ていつもより一時間半ほど早く起きてしまった朝、その替わり交通機関が楽になると考え家を早く出て学校の教室で一人ゆっくり寝ようと思った矢先、部活を勘違いして早く来た安野。
しかもそこから結構話しかけられ睡眠の時間が減ると共に、また別の生徒が来て話す羽目に。
自習が多かった授業で睡眠は多く取れたものの途中から学校に来てる意味を感じなくなり、さらにだるさが増す授業中。それでもなんとか六時間こなし帰りのホームルームも終わりやっと帰れると思ったら安野からどうしても相談に乗ってほしいと言われ三分の一奢るならと条件付きで許可を出してしまった。
相談内容によっては軽くテキトーに流せばいいやと思っていたのだが思いのほか熱を入れて話してしまいさらに披露。
そうしてなんやかんやでお悩み相談教室も終わり長い長い一日を終え今に至る。
時刻は午後六時二十分。
まだ日も落ちきってなく微妙に明るい。
「はあ、早く帰りたい」
一人呟く。
そういや今思い出すことじゃないかも知れないが安野が言ってた竹下みなみがこの前井池に問い詰められていたときに井池が言ってたみなみってやつか。
確かにあのときに桃波先輩のことで話してたと知られたらそこからさらに恋バナも広がりクラスのやつだけじゃなくそこから三年のバスケ部の先輩にも伝わる可能性もあったからどおりであそこではどうしても口を割れんわけだ。
話しを聞きつつそんな納得することもあった。
でもてことは安野は少なくとも桃波先輩の話を井池にはしてないって訳か。
同じクラスの唯一同じ部のクラスメイトなのに話してないとなるとやはり相当信用してないんだな。
あーあまたなんか考えちゃってるわ。
やめよ。
俺はまた悪い癖でどうでもいいことから変に思考を繋げてしまう。
そしてまた疲れる。
まあなんでもいーやー安野の恋が実ろうが実らなかろうが金って言う確たる対価はもらってるわけだし。
俺にとってはほんとにどうでも言い話。
もう疲れた頭を使うのはやめよう。
なんも考えずに脳死で帰ろ。
そして寝よ。
そうして俺はあと少しばかりの帰路をゆっくりと死にそうになりながら歩いた。
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