幸せとは不幸の反動の基にあり、不幸とは幸せの反動の基にある1

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    一 友情 ~ それは・・・ キーンコーンカーンコーン  最後の授業六限目の終わりを告げるチャイムが鳴った。  「笛坂、今日ファミレス寄ってかね?テスト勉強しようよ」  隣の席の井池航助がいつもと同じように誘ってきた。あまり気乗りしないけど時間もあることだしまあメリットがないわけじゃないから承諾することにする。  「良いよ、他誰か来るの?」  「あと荻野も来る、笛坂がきてくれるなら今日の勉強会は成立するわ」  「いかなかったら?」  「なしだよ、荻野と二人じゃじゃどうにもならないからね」  「ほーん、まあ誰も良いよ、多くなければ」  「おっけー!」   こうして今日もまたクラスメイトとテスト勉強をすることになった。  俺は高校二年生 神奈川の公立に通っている。  一学期の期末試験に向けて駅卑近のファミレスでクラスメイトとテスト勉強をしている。   「笛坂ここってどうするの?」  井池が聞いてくる。これがいつもの勉強風景。井池は勉強しようよといいながら俺が井池に質問することはまずないため全く対等の勉強会ではない。 井池は部活のために赤点を取らぬようこうしてテスト前になってくると俺に教えを乞うてくるのだ。ちなみに井池は部活はバスケット部で全国へ行くほどの凄腕らしい。 勉強は一人でする方が格段に効率が良いし俺が聞くこともないのだから俺にとってこの時間は勉強においては全くメリットがない。  「ここは化学変化した際にこことここが打ち消し合うから」  「ああ、なるほどね、わかったわ、ありがとう」  嘘だ絶対分かってない。この問題のみにおいて今の解説の意味が分かっただけであって根本的には理解していないだろう。でもまあ良い。  「分かったなら良かったよ」   俺はこうして彼らの勉強会に付き合う。  「笛坂、俺にもここ教えてくれない?」  次は井池の誘ったもうひとりのクラスメイトが尋ねてきた。  「良いよ」  荻野にも教えようとしたところで、  「お前まだそこでそんなのもわかんないのかよ」  井池が口を挟み嘲笑うように言った。  「うん」  元気なさげに荻野が答える。  「どうせ笛坂に教えてもらってもわからないっしょ」  「い、いや分かるから」  まあ薄々気づいていたが・・・俺は色々納得しながらも井池の時と同じように親切に教えることにする。  「これはねえ~」  それから十五分ほど過ぎたところで・・・  「笛坂、俺と荻野に口頭で問題出してくれよ」  井池がそんなお願いをしてきた。  「まあ良いけど、荻野は?」  「うん・・・まあ」  はあ・・・。 「了解」  そして、二時間ほどして勉強会が終了し解散することになる。その際に井池はバスで、俺と荻野は歩きで途中まで一緒だ。  「じゃあな笛坂、荻野、笛坂今日もありがとね」  「はいはーいじゃあねー」  軽く返事をし帰路についた。このとき荻野はなにも言わなかった。  帰路につきながら俺はテキトーに会話を繋げていた。 「中間テストから考えて今回はどのくらい取れば大丈夫なの?」  軽くボーダーラインでも聞いておく。  「うーん、前回一応五十五点だったから今回二十五とればなんとか」  うちの高校は中間期末で平均四十点を下回れば赤票だ。それ以上なら追試はない。 「ほーん。まあその点数目指してると転ぶ可能性あるから今回も中間くらいは目指しておきな」  「わかった」  テキトーに会話を繋げてタイミングを窺い、  そろそろ聞いてみるか。  俺はある意味どうでも良くてある意味少し気になっていることを聞いてみることにした。  「荻野って井池とどういう関係?」  「え?なんでいきなり?」  荻野は不思議そうに少し驚いたように聞き返してきた。  この質問の意味がこいつにわかるかは定かではないが当人ならワンチャン気づいてる可能性も十分ある。 「いや普通に、まあ話のネタ程度にね」  軽く誤魔化しながら聞き、荻野は怪訝な顔をしながらも答える。  「いやまあ普通に友達・・・」  「ほーん、友達ねえ」  あれが友達ねえ。あれが? 荻野自身も本気で心の底からそう思っているのだろうか。 いやさっきの反応を見る限り全くなんも感じてないわけではないだろう。 違和感はあるがその違和感の正体までには行き届いてないと言ったところか。  まあちゃんと違和感は存在するからな。 まず最初の井池が荻野を誘っていた理由について疑問を覚える。元々二人で勉強するつもりだったから・・・ならふつうに納得できそうだが井池は俺に言っている。        『荻野と二人じゃじゃどうにもならないからね』  ではなぜ誘う?なんのために荻野を誘う必要があった、井池にとって勉強を教えてもらえるような存在でもなければ、同じレベルでもない、同じ帰り道でもなく、それぞれが俺に教えてもらう環境下で、しかもそれならなおさら俺と二人でマンツーマンの方が間違いなく勉強の効率と時間のみ考えればそちらの方が良いはず。ではなぜか・・・。 「そうか、まあテスト頑張れ、俺はこっちだから」        「ありがとう、じゃあね」 「あ、そうそう、あと一つ」 「ん?」  俺は答えが分かっていながらもある質問を投げかけてみる。  「俺は君にとってなに?」  「そりゃあ」  荻野が答える。今度さっきと違って淀みなく  「友達に決まってるじゃん」  その答えを聞き俺は軽く微笑みながら  「そうか」  そういって自分の帰路へついた。   一人で帰りながら俺は思う。そういうことだ。結局おかしいことに気づきそれに歯向かい、おかしなことを潰していかなければどんなところへ行き、どのような環境にいようとも人は利用される側となる。  俗に言われる友達関係とはなんだろうか。それは人によって解釈もちがければ、その形づくられているものだって違う。ただ俺はそれでもそれは大きく分けて三つの立場に分けられると考える。  利用する関係、利用される関係、そして利用し合う関係。  俗に言われている友情なんてこんなものだ。  俺はこんなものに価値は感じない。単なる自分の生活を妨げる枷にしかならない。深く関わらない一歩ひいたところでその関係を俯瞰しながら関わっているのが一番楽なのだ。  だから俺は・・・   「ごめんな荻野、俺はお前ら二人とも友達だと思ったことは一度もないよ」 帰り道に一人呟き、帰った。
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