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記憶 ~ 根源
夢を見た。中学の頃の話だ。学校に通い、かつての友人と呼べた存在と共に中学生活を送っていたほんの一部のシーン。
俺はたまに中学時代の夢を見る。
だが起きた時、気分は最悪だ。
吐き気がする。嫌な、屈辱的な記憶が全て掘り返される。
俺は中学一年生の頃すごく仲の良かった友達がいた。名前は水野宗太郎。小学生からの友達でそのまま同じ中学へ。そして同じクラスだった。
中学は地元のため小学校から一緒に上がってきた人たちは少なくなかった。
無論他の小学校の人もいるが。
俺は宗太郎と仲が良く一緒にいるのは楽しかった。互いに何でも言い合え、時には喧嘩しそれでも仲直りをし、俺にとってはかなりのかけがえのない存在と言える友人だった。
しかし一般的に見て宗太郎はクラスでも本心で宗太郎自身を好きでいたやつはいなかっただろう。言うことやることは面白い、笑える。
しかし攻撃やからかいの対象を作ることが多かった。だから性格上あまり好かれなかったし、みんな心のどこかでは自分にならないかとクラスでも何人かは怯えていたのだろう。
だが俺は今まで長い期間一緒にいたが標的にされたことはなかった。
ある日宗太郎が連れてきた同じ習い事に属しているというクラスメイトを連れてきた。
名前は川高俊介というらしい。
そいつは少し色黒で身長も俺や宗太郎に比べて一回り大きく、なかなか威厳のあるやつだと思った。
だが宗太郎と川高が話してる姿、そして川高が向ける宗太郎への目を見て全て察しがついた。そういうことだ。その色黒で威厳のある川高が『対象』らしい。
だが今回は見た限りいつもとは少し違う。いわば下っ端のような存在か。
一緒に行動しずっとがずっとからかったり攻撃してないだけでも今回は全然平和。
まあなんであろうと俺は俺の接したいように接する。宗太郎に合わせる必要はない。
そう思い、
「川高君?でいいのかな。俺は笛坂真金、よろしくね」
「うん、よろしく俺は川高俊介、よろしく」
互いにシンプルかつありきたりな挨拶を交わした。
その日を境にその三人で行動することが多くなった。
一ヶ月ほど三人で行動していてわかったことがある。
まず川高は全く宗太郎のことが好きではないし出来れば一緒にいたくないんだろう。
そりゃそう考えても何ら不思議ではないと思う。
なぜならほぼ大体空き時間は引き連れられ、時には話のネタにされ、からかわれる。三人で別のことに目を向けて話したり楽しんだりする時間は決して多くない。
俺がこいつと同じ立場ならどうなんのかね。
ぼんやりとそんなことを考えながらも俺はおかしい、さすがにかわいそうだと思った時はいきなりぶっ飛んだことを言って空気を変えたり、軽く場を丸く収めるように宗太郎にものを言っていた。
そうしてるうちに川高から個人的に相談が来るようになった。
「笛坂、この前俺の習い事でのことクラスの数人にネタにされたんだよ」
ここまでだと、だからなんだ と思うが、少し話を押し広げて聞いてみることにした。
「習い事でのネタって?」
「いやうん、まあそれはちょっと・・・」
まあ言いたくないよな。
「わかった。別の質問なんだけど」
「うん・・・」
「どうして宗太郎と一緒にいるの?」
「いやそれはやっぱ習い事同じだし」
「それだけ?」
「まあ他にもなくはないけど」
「ほーん」
まあ大方予想通りだけど単に習い事が同じというだけで嫌な思いをしてここまで一緒にいる理由がない。
であればあるのだ。絶対に離れることが出来ない理由が。それについても予想もつかなくはないが、俺がその習い事に一切関係してない上に、学校での出来事を相談されている以上習い事に関してのことは聞く意味もないし知る必要もない・・・けどつい何か出来ないかとも考えてしまう。でもないものはないのだ。だから俺のできる限りのことでなんとかしてやりたい気持ちはある。
俺が出来るのはまず俺は今まで通り宗太郎とは違って対等に接すること。
というかこれが普通なんだけどな。同い年で同じ学校、同じクラスそれでいて人に優劣を付ける意味がわからない、なんの立場、理由で自分の地位を決めているのか。
上と思っているやつも、下と思っているやつも・・・。
宗太郎もそして、川高も。
まあ細かいわからない事情もあるかもしれないからここではこいつにこの話はしない。
それからも俺はちょくちょくと相談に乗ってやり、時には宗太郎にもさすがにキツそうなことは学校でも止めには入ったりと、できる限りのことをしていた。
そうしているうちに俺と川高も個人的にも仲良くなっていった。
そして中学に入学して半年が経過した頃、大きな転機となる出来事を迎える。
宗太郎が十二年間住み続けた神奈川から九州の大分に一週間後に引っ越すというのだ。
俺は急なことに簡単に事態が飲み込めなかった。寂しい、もう会えないのか?
涙が出てきそうになった。クラスのみんなも驚いていた。
しかし本気で悲しんでいるのは俺だけだった。
川高はもちろんのことクラスの連中に本気で悲しんでるやつなどいない。
でも悲しんでる俺を慰めてくれる奴らはいた。そのうちの一人は川高。
俺は悲しく寂しいながらも、背中を支えてくれる人たちのおかげもあり、もう決
まったことと半ば無理矢理悲しい気持ちを押し殺し、残りの一週間を楽しむことにした。
その一週間はあまり眠れなかった。
そして引っ越し当日。最後宗太郎が先生の授業配慮もありその時間クラスの人と最後別れの挨拶の時間に使って良いという。
宗太郎はクラスの人と話す。みんなと別れを告げる。
俺のとこに来た。そして少し笑いながら
「長期休みとかはこっちに帰ってこられるように頑張るよ、正直超楽しかった。ありがとな」
俺は驚いた。俺と宗太郎はめっちゃ仲良かったがここまではっきり感謝を伝えられたことはなかったからだ。宗太郎はそう。所謂ツンデレというやつだった。
それゆえにいつもとのギャップ、異質さから改めて『あぁほんとにいなくなっちゃうんだ』と再認識してまた涙が出そうになる。
いや出てた。
それでも俺は
「絶対帰って来いよ」
といった。
宗太郎は複雑な、なにかを堪えるよう、そんな表情。
いうまでもない。
「いくね」といい
ゆっくりと教室から姿を消した。
多分宗太郎は・・・泣いていた。
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