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過去 ~ 同士
それから二週間ほど経つが俺はまともに誰かと会話するわけでもない孤独な日々を送っていた。
だがその日は俺の高校生活が始まって以来の転機となる出来事に遭遇する。
俺たちのクラスは今物理基礎の授業を受けている。
この授業は内容の理解に伴い生徒の自主性と協調性、コミュニケーションの能力の向上を目的とした趣向もこらしているらしく、隣の席の人と席をくっつけ、先生の説明を聞いた後、互いに協力しあって演習に取り組むというものだ。
一列と二列、三列と四列、五列と六列のそれぞれの隣の席の人たちがくっつけることになる。
そして俺は三列のため四列の丸眼鏡の男子生徒、室井悠人と言う生徒とだ。
このようにして授業を行う物理基礎の授業は二回目で初めてではないが、前回は初回の基本の所ということもあり、簡単な内容であったことから互いに口を開かず協力なしで取り組んだ。そのため「よろしく」くらいの社交辞令しかしていない。
「では概要は以上になります。わからない箇所があったら遠慮なく聞いてください。二人で出来るところ、あるいは他に聞いて出来るのであればそれでも構いません。ではどうぞ」
先生の説明が終わり演習用紙が配られる。先生はああ言ってたものの今回もそこまで難易度の高くない内容。
協力はなしで終わりそうだ。少し気になってはいるため話をしてみたいとも思うのだが、安易に軽く話かけるのはやめておく。
そんななか十分ほど演習に取り組んだところで、
「さかいーどこまで終わったー?」
教室の真ん中から後方の廊下側に向けてそんな陽気かつ大きな声が響いた。なぜか廊下側の後方の1番遠い野球部のやつに向けて。
「いまねーしかく2のいちばーん」
そして境と呼ばれたやつも同じような調子で返事をする。
「はー?おまえまだそこかよおれもうしかく3番いったわ!」
「いやあってなきゃいみないからー!」
最初はなんだと思ったが心底どうでも良い会話が教室内に響き渡る。
しかもむしろ遅いし。
こういうとこだ。こういうところが嫌いなのだ。
まずなぜみんなが集中してる状況で、しかもまだ二週間程度、クラスの見たところでは友好関係はまだそこまで深くは浸透していないように見え、それぞれに人となりや性格もまだ互いに知れ渡っていない状況。
にもかかわらずなぜあんな無神経に授業中に大声でどうでも良いことを叫べる?
みんな静かな状況で。
いや、あいつらはおそらく、特に関山というやつはわざと自分から一番遠いやつに向けて呼びかけている。大声でその内容と進捗状況をたがいに報告し合うことで、まず先生に向けてはしっかりと取り組んでいることをアピールしそして、静寂な中大声で話し、注目を集めることでこのクラスでの存在感を示そうとしている。
そんな姿を眺めながら
「「うっぜぇ」」
思わずこんなことをつぶやいてしまった。自分でもびっくりした。
ただ・・・なんか違和感を感じた。確かに俺はつぶやいた。
だけど聞こえた声がもう一つあったような・・・。
記憶を頼りに聞こえた方向、そう、左隣の男子天然パーマの丸眼鏡の男子生徒、室井もペンを止め、関山の方をじっと見ていた。
そして俺の視線に気がついたのか視線をこっちに移した。
そして室井は言った。
「うぜぇよな、頭おかしいんじゃねえのって思うわ」
物静かそうな天然パーマの丸眼鏡の男子生徒室井が冷たい声でそんなことを言う。
だが俺はなぜか驚かなかった。そして俺も
「うん、同感、全く同感」
と。
俺らこの短い会話とその時の目でわかった。
互いに似たようなのもを嫌い、似たような考え、思考、視点を持ち合わせていることに。
そしてその一瞬の短い出来事をきっかけに俺と室井はよく話すようになっていった。
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