初めての対象者 美穂

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初めての対象者 美穂

 正午にバイトを終えると、バイト先の先輩である美穂が纏わりついてきた。 「ね〜ぇ。 これから何処かに行きましょうよ?」  馴れ馴れしく腕を絡め、わざとらしく胸を押し当ててくる。  だが、そんな色仕掛けに、俺は屈しない。俺が心の底から望むのは、あいつだけだ。美穂が絡めた腕を解きながら、俺は首を振る。 「行かない。予定があるんだ」  そっけない俺の態度に、美穂はむくれ顔で、不満そうに言う。 「また、あの子〜?」 「だったら、なんだ? お前には関係ないだろ」  冷たく言い放ち、そそくさと歩き出した俺を美穂は追いかけてくる。 「待ってヨォ〜。 ね〜ぇ、シスコンなんてやめたらぁ? カッコ悪いよ〜」  美穂の言葉に思わず立ち止まる。何か言い返さなくてはと思いつつも、言葉が出て来ない。美穂を睨みつけながら、俺は歯を食いしばる。  その時、ポケットに入れていたスマホが小刻みに振動を始めた。  取り出すと、画面には、いつもはあまり表示されることのない、父の名前が出ている。  訝しく思いつつも、俺は通話ボタンを押し、スマホを耳に当てた。 “美空が、何者かに刺された”  電話口の父の声を聞いた途端、訳もわからず駆け出そうとした俺の手首を、冷たい手が掴んで引き留めた。
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