3人目の対象者 美桜

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 俺は、美桜の手を引っ張り、一旦物陰に身を潜めると、あいつをやり過ごす。そして、あいつを視界に捉えられる距離を保ちつつ、後を追う事にした。  道すがら、沢山の風船を手にしたパンダの着ぐるみが、コミカルな動きをしつつ、あいつに近づく。  俺は身を固くしたが、特に何事もなく、あいつはパンダに手を振り、先へと進んで行った。  緊張からか、いつの間にか止めていた息を吐き出すと、それで何かを察したかのように美桜が、小声で声をかけてきた。 「もしかして、あのグループを尾行するための、カムフラージュですか?」 「えっ?」  怒涛の出来事のせいで、対象者になり得ない美桜の存在を、瞬時に忘れ去っていた俺は、美桜の小さな声にビクリと反応する。 「あら? 違うのですか? 何やら、真剣な視線を送られているので。てっきり、私は、カムフラージュの相手役として、抜擢されたのかと思いましたが?」  誘った理由は少々違うが、美桜の突飛とも思える妄想は、当たらずとも遠からずなため、俺は、これ幸いとばかりに、その妄想に飛び付いた。 「うん。実は、そうなんだ。最初に理由を言わなくてごめんね」  極力申し訳なさそうに見えるよう、俺は、眉尻を下げつつ、頭を下げた。
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