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変身した後は、美桜の誘導で、あいつの付近を付かず離れずウロチョロとする。パンダ好きのあいつは、俺のことが気になるのか、チラチラと視線を寄越す。しかし、子供っぽく駆け寄ってこないあたり、かなり自制しているようだ。
太陽は頭上高く登り、もう、そろそろ正午。気を引き締めなくては。どこで、どんなことが起こるか分からない。分かっていることは、あいつの身に危険が及ぶということだけだ。
美桜のキスによるタイムリープは、期待できない。なんとか、ここで食い止めなくては。
そう思った矢先、甲高い悲鳴が、周囲に響く。素早く視線を送ると、思った通り、あいつの周りで騒ぎが起きた。
ナイフを振り回しながら、あいつを威嚇する女。アレは、美穂か?
チクショウ。あいつを危険な目に合わせるのは、結局俺なのか。
ギリッと下唇を噛みながら、俺は、あいつと美穂の元へ走る。不恰好な着ぐるみのせいで走りにくい。
美穂が狂気の沙汰で、あいつにナイフで襲いかかる。その間へ俺は必死で飛び込んだ。
ズン!
鈍く重い衝撃が、体に伝わる。
「イヤーーーー!」
誰かの悲鳴を聞きながら、俺は思う。
誰でもいい。誰か、俺にキスをしてくれ! 本気のキスを。
そんな事を思いながら、俺は、その場に崩れ落ちた。
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