再会は、突然の雨の中で

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再会は、突然の雨の中で

 突然降り出した雨に追われて駆け込んだのは、もう廃線になった駅の改札口だった。  夕暮れ時の曖昧な暖色の空が徐々に暗くなっていくなか、誰もいないところにひとりでいるのは少しだけ心細かったけど、このまま濡れて帰るにはわたしの家はまだ遠くて。仕方ないと自分に言い聞かせながら、雨が上がるのを今か今かと待っていた。  けど、そんな願いもむなしく、雨は上がる気配なんて見せないままどんどん空は暗くなってしまった。厚い雲に覆われた空が不気味なほど赤く染まって、もう夜がすぐ傍まで迫っていることを伝えてくる。それでも足を踏み出せずにいるのは、雨の日にあまりいい思い出がないから。  幼い頃には買ってもらったばかりの長靴で歩くのが楽しくて出歩いていたら側溝に落ちて。  小学校の頃には隣をすごい勢いで通ったトラックのせいでお気に入りだったワンピースが駄目になって。  中学校の頃には濡れたマンホールの上で自転車のタイヤが滑って思い切り転んだりしてしまって。  そして――――  ザァァァァァ…… 「うわ、なんかどんどん雨強くなってきてる……」  こんなことならさっさと帰ってればよかったなぁ。自然と溜息が漏れて、気分が沈んでしまう。どうしよう、こうなったら覚悟を決めて濡れて帰るしかないのかな……。帰れないんじゃそれもそれで困るのは目に見えてるし。  ……よし。  すぅ、と息を吸って、走り出そうとしたそのときだった。 「あれ、菜穂(なほ)?」  突然雨に濡れて駆け込んできた男の人が、わたしを見るなり声をかけてきた。その声に聞き覚えがあって見返すと、そこにいたのは……。 「あ、俊哉(しゅんや)」  坂本(さかもと)俊哉(しゅんや)。  そこにいたのは、高校に入ったばかりの頃、初めて付き合うことになった相手だった。
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