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『もうあなたとは一緒にいられません。さようなら』
机の上に達筆な字で書かれた白い紙が置かれていた。
ああ、そうかよ。
結局お前も他の女と一緒かよ。
くだらねえ、昼寝でもするか。
今日は休みだし、思いっきりダラダラできる。うるさいのも、もういないしな。
さっそくポテチを開けてテレビをだらだら眺める。
恋だの愛だのうるさい恋愛ドラマの再放送が流れている。
あいつが好きそうだから録画するか。
思わず綻ぶ頬を抑えながら録画をしようとしたが、ふとあいつがいなくなったことを思い出す。
馬鹿みてぇ。
恋愛ドラマからニュースにチャンネルを変えた。
気を紛らわすためにコンビニに寄ったのはいいが、このプリンを買って行けば喜ぶだろうなとか気付いたらあいつのことばかり考えていた。
あいつと過ごした何気ない日々が気付かぬうちに俺の習慣として馴染んでいた。
プリンはそっと商品棚に戻しておいた。
コンビニで買った缶ビールを飲み漁る。
酒に溺れたらあんな女のことなんか、すぐに忘れるはずだ。
だが、さっきからあいつとの思い出ばかりが脳裏をよぎる。
それもなぜか美化されて。
もういい、はやく、忘れさせてくれ。
あたりは缶ビールで埋まっていった。
暗闇のなかで孤独を嗤う。
優しかった女が帰ってこない現実を嘲笑うことしかできない俺は何て無様な男だろう。
灰皿に煙草の吸い殻を棄てる。
かつて愛しあった女との思い出を棄てるように。
酒の匂いと缶ビールの缶で荒れ果てたこの家を掃除する女は、もうここにはいない。
『結局俺は一人がお似合いだな』
そうぼやきながら窓辺を眺めると、半分欠けた月が空に浮かんでいた。
まるで、俺達みたいだな、と冷笑した。
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