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「ねえ、覚えてる?」
身近人生において、果たして何度そんなふうに尋ねられることがあるだろう。
少なくとも俺の人生ではこの夜が初の出来事だった。
後ろからツンツンと肩をつつかれ、振り返るとスーツ姿で立つ一人の女性が立っていた。
赤い唇で笑みを作りながら、彼女は俺にそう尋ねてきたのだ。
焦げ茶色の髪をボブカットにした、なかなかの美人だった。どこかしら余裕の感じられる笑みに対して、俺も一生懸命笑顔を作って返す。
そうして時間を稼いでいる間に、自分の記憶と目の前の顔を一生懸命照合する。
もちろん、これが飲み過ぎの幻ではないかという疑惑も検証せねばならない。
こういう時、慌てたら負けだ。
確実に思い出す。
万が一にも別人の名前を呼んだなら、このチャンスは一瞬で無に帰すに違いないのだから。
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