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【episode5】ひと月の妻
『ゆっくり眠ってね。』
寝際に届く彼からの温かなメッセージに包まれて私は眠りにつく。
40代後半の彼とは、知り合ってから毎日毎晩アプリで言葉を交わしていた。
ひと月が経った頃、私たちは互いの肌に触れ合う関係になった。
彼の腕が私の背中にまわり、私が彼を抱き寄せると、彼の口から安堵の溜息が漏れる。
ハグはどうしてこんなにも人を安心させるのだろう。
私たちは、お互いを慈しむように抱き締めると深く激しいキスをした。
情事の後、湯船に浸かりながら互いの結婚観について話していた時のことだ。
未婚の理由について『365日人と住むことが苦痛。ひとりの時間が必要だ。』と語る彼に、それなら隔月でお土産持って帰って来る『妻のような恋人』がいるのはどう?と何気なく提案してみた。
すると彼が、「今までそんな発想をしてくれる女性はいなかった!その意見に賛成!って言うか賛同‼︎」と、少し興奮した様子で目を輝かせ笑顔で私を見つめた。
一般の社会では、男女は一対であり同じ相手と決まった場所で過ごすというのが常である。
だが、その枠に収まれない人種もいるのだ。
放浪癖のある私がいて、自由と愛情を欲している男性がいる。
こんな需要と供給は、肌を重ね愛を与え合った者同士だから成り立つ。
素肌を曝け出し繋がった相手だからこそ、社会道徳的に疑問視されるようなことでも、安心感を持って素直に話し笑い合えるのである。
ひと月、彼の元で過ごし私は旅に出る。そして、ひと月後には両手にお土産を抱えて彼の元に帰るのだ。
再会を心待ちにした身体は、互いを深く求め合うだろう。
世間がどう思うかなんて知ったこっちゃない。こんな関係があっても良いじゃない。そんなことを思わせてくれる出会いであった。
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