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家に帰ると早速、買ってきたばかりのゲームソフトを袋から取り出した。
『疑似死体験シリーズ 彼らの殺意を受け入れる覚悟はありますか?』
パッケージ裏にはそう書かれている。
主人公が家に帰るまでに様々な殺人鬼に殺されることを目的としているゲームだ。
多種多様な殺し方をしてくる。
コンプライアンスに引っかかってもおかしくないテーマを題材にしている。
私はこのシリーズが好きだ。
死にたくはないが生きたくもない。
そんな中途半端な私にはピッタリ。罰が欲しい。
同じような人間がいるからシリーズ化もされているのだろう。勝手に思う。
「まずはいつものやつで遊ぶか」
呟く。
棚からゲームソフトを出す。パッケージには黒髪の少年、青木泉樹も載っている。
ゲーム機の電源を入れる。ディスクも入れる。
オープニングムービーが流れ始める。
たった一人の殺人鬼にしか目がいかない。
泉樹だ。
前のめりになって、彼を追いかける。
泉樹がナイフを舌舐りしている。
口の端がつり上がるのが自分でもわかった。
本当によく似ている。
「泉樹……泉樹。陽斗……」
液晶画面には、主人公が家に帰る途中の映像が流れている。
自己投影しながら進めていく。
外灯の下を通過しようとしたとき、陰から泉樹……陽斗が出てきた。
くるぞ。期待する。
彼専用の台詞がある。決まって口にするその台詞。
私の選択肢もいつも決まっている。
いつでも矢印は数ある言葉からそれを選択する。
唯一、彼が殺めるのを失敗する言葉だ。
「ねえ、覚えていますか?」
「えっと……どちら様?」
〈終〉
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