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「お姉ちゃーん」
陽斗の声に顔をあげる。
目を離した隙に中洲まで行ってしまったようだ。元気よく手を振っている。
妹も真似て川に入っていこうとしたので、慌てて止めた。まだ七歳の彼女には深すぎる。
そのかわりに一緒に遊んでくれとせがまれた。
少しなら、と石を料理に見立てておままごとにつき合うことにした。
どのぐらいそうしていただろう。
突然、陽斗の悲鳴が聞こえたんだ。
私たちがいる場所へと戻る途中で足を滑らせたらしい。
どんどん流されていく。
妹は泣き叫んだ。助けて、と。
でも足が動かなかった。
穏やかに見えていて川が別の顔を見せたことで、情けない話、怖くなってしまったのだ。
どんどん。どんどん。
遠くへと流されていく陽斗。
やがて、完全に姿が見えなくなった。
そのときになって、ようやく動くことができた。完全に手遅れだった。
翌日、陽斗は変わり果てた姿で発見された。
私は死体を見ていない。
でも想像する。きっとあちこち傷ついて、光のない無機質な瞳へとかわってしまったのだろう、と。
妹は私が陽斗を見殺しにしたのだと、両親に訴えた。
二人が責めることはなかった。
それがかえって私を苦しめた。
妹のように直接的に言われたい。
それは陽斗にしてしまったことから逃げることになるのかな。
私は選択肢を誤った。
スマホなんか弄っていなければ、陽斗は中洲に行くこともなかっただろう。
両親は神経質になるようになった。
学校を辞めさせられ、通信教育にかわった。
外出する際は家族の誰かがついていないと禁止になった。
水に関連する場所へは絶対に行かせなくなった。
川だけじゃない。プールに海。
雨の日の水溜まりまで。
家族をそこまで追い詰めたのは私だ。
そんな私には罰が必要なんだ。
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