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私は赤ん坊が苦手だ。
公共機関で赤ん坊の鳴き声が聞こえれば、うるさいなと眉をひそめる。
そして鳴き声の方へと、キリッと視線を向けてしまう。
肩身が狭そうに慌てながら赤ん坊をあやす母親。
「疲れちゃった? お腹すいた?」
ふにゃりとした赤ん坊をゆっくり抱き上げ、ゆりかごのように揺らしている。
しかし、赤ん坊は火がついたように泣き叫んでいる。
(きっと、お腹が空いたのだろうな)
私は横目で赤ん坊の泣き顔を見ながら、そう思った。
ここは飛行機の中、簡単に移動することが出来ない。
母親はミルクを作れないし、周囲に人がいるから母乳もあげられない。
穏やかに接している母親のオデコには、うっすらと汗が滲んでいた。
この母親の心中を察すれば、あまり責めることも出来ない。
かといって、私が手伝えることもない。
私に出来ることがあるとすれば、母親に降り注ぐ鋭い視線を少しでも軽くしてあげるために、顔を逸らしてあげることくらいだ。
私はゆっくり前を向き直した。
烈火の如く泣き叫ぶ赤ん坊の声を聞いていると、私はだんだん切なくなってきた。
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