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昔、父が言っていた言葉を思い出す。
5つ離れた弟が産まれたときだ。
赤ん坊の頃から癇癪持ちだった弟は、しょっちゅう泣いていた。
本当に頻回だから、何が不快で泣いているのか分からず、母が困惑していたのを覚えている。
『赤ん坊ってのは、腹一杯おっぱい飲ませて温かい部屋に置いときゃ、機嫌よくしてくれるもんなんだよ』
ビール片手におつまみをつまみながら父はそう言った。
まるで子育てベテラン主婦の様な貫禄で言い放つ。
その父の膝の上に、ちょこんと座って豆ごはんを食べていた私は、手を止めて父を見上げた。
「それだけで赤ん坊は泣かなくなるの?」
アルコールの強くない父は、顔を赤らめている。
そして上機嫌に答えた。
『あのな、飢えと寒さってのは1番ひもじいんだよ』
「ひもじいって?」
『幸せを感じないってことさ。だからな、飢えと寒ささえ満たせてやれば、赤ん坊もおおむね満足するってことよ』
そういって父はビールをグビッと煽った。
育児の大変な部分には積極的に参加しない父ならではのシンプル理論。
思い返せば父も昭和な人間だったな。
しかしあの理論、そんなに大きくは外れてないと思う。
飢えと寒さが嫌なのは、大人だって同じだもの。
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