◇偽善?*浩人

1/1

250人が本棚に入れています
本棚に追加
/28ページ

◇偽善?*浩人

 オレは誰とでも仲良くなれる。  昔からそうだった。  女の子にもモテるし、男にも人気があって。  先輩とか先生とか。下からも好かれる。    なんか、とにかく人に好かれる星回り?  何もしなくても、周りに人が集まる。  母さんがやたら友達の多い、明るい人で。  そんな人に育てられたせいなのか。  特に、自分が仲良くなりたいと思って、そうなれなかった事は、今までは無かった。  予鈴が鳴って、朝のホームルーム前の僅かな時間。 「な、桜木」  背中をつつく。 「……何?」  嫌そうな声。  お、今日は声が返ってきただけマシかも。 「昨日の本。読んだよ」 「――――……読んだの?」  ますます眉が寄る。  あーあ。綺麗な顔が台無し……。  でも、少し、驚いたみたいな顔してくれたのが。  反応が返されたのが、嬉しい。 「面白かった」 「――――……」  本気で言ってんのかな、とでも、思ってそうな顔で、オレを見て。  類は、ぷい、と前を向いた。 「――――……今日も図書室行くの?」 「……」 「別の本、選んでくれない?」 「……」  返事はない。  担任が入ってきた。  そのまま、授業が始まった。  類は休み時間は、本を読んでるか、寝てるか、居ないか。  全然誰とも絡まない。  つまんなくねえのかな。  ――――……ずっと1人で、何を考えてるんだろう。  教室の窓際で、何人かで何となく集まってた時。  オレは、ぽそ、と周りの奴に聞いた。 「桜木と同じ中学の奴って知ってる?」 「知ってるけど……何でお前そんなに桜木の事気にすんの?」 「何でって……?」 「だって、あいつって、全然仲良くしたそうじゃないじゃん。クラスに溶け込めない奴を助けてやろうっていう感じ?」 「……は?」  ――――……助けてやろう?   そんな上から目線の感じではない。  ――――……むしろ、仲良くしてもらいたい、のに。  あまりに不快で、眉を顰めたオレに、そいつは少し引きながら。 「だってあいつと話してもメリット無いじゃん」 「――――……」 「お前良い奴だからああいうの、ほっとけないって感じ?」  ――――……こいつと話してもメリットねえな。 「――――……オレ、トイレ」  不快なその場から離れて、深呼吸。  トイレから、類が出てきた。  ふ、と、類がオレを見て、すぐに視線を逸らした。  そのまま、何も言わず、歩いていってしまう。  ――――……もしかして、類もそう思ってんのかな。  オレが、良い人きどって、類みたいなのほっとけなくて、  義務感?で話しかけてくる、とか。  偽善っぽいと、思ってんのかな。  …………そんなじゃ、ないんだけど。  その日、ずっと考えた。  何でオレが類と話したいか。  分かりにくくて。  話しかけてもまともな返事も無くて。  むしろ嫌がられてる気がするのに。  何で話したいか。   放課後。図書室で、昨日の本を返した。  昨日と同じ席に、類が居た。 「……桜木」 「…………」  ちら、とオレを見て、類が、ふ、と息をついた。  また来たのか、と、思ってるのかな。 「……オレね、桜木」 「――――……」 「お前が笑う顔が見たい」 「――――……は?」 「……構うのは、それが理由だから」 「――――……」 「……それだけだから。他になんの意図もない」 「――――……何それ?」 「――――……」  類が、きょとん、としてる。  何の脈絡もなく言った、こんな意味の分からない言葉を告げたオレに、警戒してるいつもの感じじゃなくて。  眉を寄せる事も無く、ただ素直に、きょとん、としてて。  初めて、素の対応、な気がして。 「良い人ぶって構ってやってるとか、そんな偽善ぽいのじゃないよ。オレが、お前の笑った顔が見たいだけだから」 「――――…………」 「ごめん、何言ってるか、わかんねえよな……」 「――――……」  何かそれ以上何も言えなくて、どうしようかなと思っていたら。  何も言わず、類が立ち上がった。  また置いてかれた。  仕方なく、類の隣の席に、座った。  今まで、仲良くなろうと思って、  仲良くなれなかった奴は、居なかった。  コミュニケーションスキルは、色んな所で褒められてきた。  なのに。  ――――……今までの中で、一番。誰よりも。  類と仲良く、なりたいのに。  なんでそのスキル、類には、効かねえのかな。  俯いたまま、はー、と息を付いたとき。  ことん、と何かの音が、すぐ近くでした。  顔を上げると、目の前に1冊の本。 「――――……」  また昨日みたいな種類の本かな……。  そう思って、諦めながら本を手に取ると。  何だか違う、普通の小説のようだった。 「――――……桜木?」 「…………オレが、好きな本の内の、1冊」 「……一番好きな本、じゃないの?」 「――――……一番好きな本、人に言うのって……恥ずかしいから嫌だ」  ……何それ。どーいうこと。 「……自分の内面……見せるみたいで、やだっつってんの」 「……ますます、なにそれ……」  く、と笑ってしまうと。類は、ふい、と顔を逸らした。  ――――……ていうか、類、今、過去一番長い言葉で、オレに喋った。 「……偽善でやる奴は……わざわざそんな事、オレに言わないだろ」 「――――……」 「オレ別に――――……そんなことは、思ってなかった」  そんな風に言って、類は、また席にちゃんと座って、自分の本を開いた。  ――――……なんか、すげえ嬉しい。    オレは、そのまま、類の隣で、今渡してくれた本を開く。  そのまま、何も話さず。  結構長いこと、本を読んでた。  18時になって、図書委員に、閉室すると、声をかけられるまで。  一緒に。 (2021/7/23)
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!

250人が本棚に入れています
本棚に追加