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◇マゾか愛か?*浩人
「おはよ、桜木」
翌日、いつもなら自分の席には座らず、適当に立って誰かと喋ってるのだけれど、今日は類を待って声をかけた。
一緒に帰れた昨日の今日だから、挨拶位してくれるかなと思ったけど。
ちら、と見られて、終わった。
――――……挨拶すら、ハードル高いなー……。
もはや、難解なパズルか何かのように、どう挑戦すればいいのか、楽しくなってくる。というか、そうでも思わないとへこみそうなので、どう攻略すればいいかを考える事にする。
目の前に座った類に、後ろから。
「昨日の本、読んだ。――――……面白かったよ、すごく。主人公が、前向きで、一生懸命で。 読んでて、楽しかった」
最初の一言で、ぴく、と動きを止めたので、聞いててくれてる事は分かったから、最後まで言い終えた。
「――――……今日も図書室行くなら、オレも行くから。また本、選んで」
多分返事はくれないだろうと思ったけれど。
案の定、振り返りはしない。
OKなのかどうか、この答えが分かるのは、放課後か。
……図書室行かないなら、行かないって言ってくれんのかな?
行かないって言わないなら、行くって事でいいのか??
……行ったら居ない、とかもありそうな気もするけど。
ふ、と息をついて。
カタン、と椅子を引いて立ち上がった。
今日は、良い風だなー超爽やか……。
何となく窓際に立って、風を浴びてると。
1人の女子が隣に立った。
……相原。だったよな。出席番号1番の子。
「佐原くん、おはよ」
「ああ。おはよ」
笑顔の挨拶。
類がこんな風に挨拶してくれるのは、いつ、かなあ。
「ねね、ここだけの話なんだけどさ。佐原君てさ?」
「ん?」
「……桜木くんの事が好きなの?」
「――――……? 好き?」
「うん」
「それ、どーいう意味?」
「だって、あんなに無視されても話し続けられるって、すごいなあと思って」
「……はは」
……変な子。
「そこまで来ると、愛なのかマゾなのかって思って」
…………マジ、変な子。
「うーん……オレ、マゾではないな」
内心を隠しながら、そう答えると。
「じゃあ愛なの? 大丈夫、誰にも言わないから」
じー、と見つめられて。
「つか、隠すような事も何もないけど」
思わず苦笑い。
「愛だとか考えた事もないし」
「ふうん? え、じゃあ、何であんなに無視されても話しかけられるの?」
「たまには答えてくれてるし」
「あ、そうなの? あたしが見てる時は、もう完全スルーしか見た事が無くて」
あはは、と笑う。
「でも佐原君は、良い人だなあと思う」
「――――……」
また、偽善的な? て事かなと思ったら。
「だって普通あんなに話しかけて無視されたら、いい加減怒りそうなものじゃない。それかもう話しかけないとかさ?」
「――――……」
「よく毎日笑顔で話しかけられるなーと思って」
「――――……それって、褒めてんの?」
「褒めてるよー、あたし、応援してるからね、いつか桜木君が佐原君にめっちゃ笑顔で話しかけてる所が見たい!」
はは。……ほんと変な子。
「まあ……それはオレも見たい」
「そうだよね!」
「諦めないでほしいなー。 桜木君、めっちゃ顔キレイなのに、全然笑わなくて、もったいないし」
「桜木が好みのタイプ?」
「ううん。全然。――――……でも、すごくキレイだから、笑った顔、見たいし」
「――――……まあ、分かるけど」
「佐原君が諦めたら、もう誰にも無理だと思う位、桜木君の壁って厚く見えるからさ~」
「――――……壁、ねぇ……」
「だから、応援してるから、めげずに頑張ってね」
「はは。ありがと」
……変な子だけど。
オレと好みが似てるのかも。
キレイな顔。笑って欲しいって。おんなじ事言ってるし。
クスクス笑ってしまう。
「ねね、挨拶も返してもらってないのに、何を返事もらったの?」
「――――……んー」
本の話は返してくれたかな。
あ、あと。
昨日――――…… 偽善だとかは思っていないって、言ってくれた。
――――……まあそれは内緒。
「忘れちゃったけど。ちょっとは返事してくれてるよ」
クスクス笑いながら、答えているとチャイムが鳴った。
机に戻りながら、思わず苦笑い。
――……クラスの奴らって、オレが類に話しかけてんの、よっぽど不思議なんだな。……ほっときゃいいのに。
偽善って思ったり、愛だとかマゾだとか。何だそりゃ。
マゾじゃないから――――…… じゃあ、愛かな?
――――……愛、ねー……。
類の後ろに座って、キレイな背中、眺める。
とんとん、と触れた。
「桜木、今日、図書室行く?」
こっそりそれだけ聞いてみる。
少しして、類が小さく、頷いた。
そんなんが嬉しいとか。
放課後が楽しみとか。
……まあ、愛かもなあ。
なんて思ったら、つい、微笑んでしまった。
(2021/7/29)
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