◇絡まない方が?*浩人

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◇絡まない方が?*浩人

 4時間目。体育だった。 「腹減ってんのに、体育って無いわー……4時間目の体育って、マジ、ひどい」  隣に居た奴が、嫌そうにそう言ってくる。 「しかも今日、100メートル、何本か測るって。だるい……」 「そうなのか?」 「隣のクラスが3時間目の体育でそうだったって」 「へえ……」  そこまで聞いた所で体育教師の号令がかかった。  今聞いたのと同じような説明をされる。 「隣の高校との交流体育祭で、100メートル走に出る奴を決めるから。マジメに走れよー、3本走るからな」  ああ。そういや言ってたな。  1年生同士、交流の為の体育祭があって、色々な競技で争って、得点を付ける。去年一昨年は負けたらしく、教師たちが今年こそと気合を入れてるっぽい噂を聞いた。  ……めんどくせ。  勝ち負けなんかどーでもいいし。  皆がげー、と嫌そうな顔の中。  ふと見つけた類は、いつもどおり涼しい顔をしてる。  準備体操が始まって、適当に体を動かしながら。  ……類は、運動部っぽくないもんな。中学も、読書するための帰宅部??  足は速くないかな、と失礼な事を思っていると。 「2人組になって柔軟しろー。全力で走るからしっかり伸ばして」  教師のその声に、オレは即、類の元に向かった。 「桜木、柔軟一緒にやろ」  類を誘うと。ため息をつかれた。 「何でそんな嫌そうなの? 2人組なんないといけないんだから、オレでいーじゃん?」  笑いながら言うと、またため息。 「……ほら、座って。押すから」  ほぼ無理矢理座らせて、背中を前に押す。 「――――……桜木って、足速いの?」 「……普通」 「ふうん」  あ、返事きた。  くす、と笑ってしまう。 「あのさ……」 「ん?」 「――――……オレに絡まない方が良いよ」 「え?」  類はそう言うと、立ち上がって、オレに座る事を促す。 「……何それ。絡まない方がいいとか、ないでしょ」 「――――……その内分かると思う」  ……何だよ、それ。  背中に、類の手が触れる。  軽いなー、類。  触り方が……なんか。遠慮がち。 「もっと、強く押していいよ?」 「――――……」  少し力が入るけど。全然軽くて。  ――――……なんか、類が触れてるのが嬉しいとか。  急に思って。  何かオレ、変だなーなんて思いながらも。  なんとか平常心で、柔軟を終えた。   それから、出席番号順に並んで、5人ずつ走る。  類の隣だった。  スタートして。走り出して驚く。  オレは昔から足が速かった。こういう競争の時、ダントツで速いから、一緒に走る奴が視界には誰も居ない事がほとんどで。なのに、類がばっちり視界に入ってて。  結局、オレが1位、類が2位で、他は大分後ろ。 「……ていうか、桜木、早いんだな」 「――――……1位の奴に言われても……」 「オレ、昔から足速くてさ。同じような速さの奴、なかなか居ないから、驚いた」 「何その自慢……」  類が苦笑いしながら、地面に座って、ほどけかけた紐を結び始めた。 「何か運動してた?」 「――――……短距離、やってた」 「へえ。そうなんだ」  意外。 「中学でってこと?」 「――――……」  類は、ちら、とオレを見て。  一度だけ頷いて、終わった。  もうそれ以上話したくないみたい。声、出さない。  なんかそういうのだけは、分かるようになった気がする……。  す、と離れて行ってしまった。  類って、ほんと。  自分の事、話したくないんだな。  ――――……オレと話してるとこも、見られたくないのか?  さっきの、絡まない方がいいよって。  ――――……どういう意味?  絡まない方がいい。  ……どういう言い方?  絡まないで、なら、類の気持ちだけど。  絡まない方が良い。  その言い方って。  ……オレにとって、類とは絡まない方がいいって、事か?  その内分かるって、何。  ――――……わっかんないなあ。ほんと。   (2021/8/4)
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