◇どうしたら*浩人

1/1

250人が本棚に入れています
本棚に追加
/28ページ

◇どうしたら*浩人

 やっと、放課後になった。  類が立ち上がって、多分、図書室に向かって消えていった。  オレも行こ、と思った時。  隣のクラスの新太(あらた)に呼ばれた。中学のバスケ部で一緒だった仲の良い奴。 「浩人、今日もバスケ行かないの?」 「ん、パス」 「何で? バスケしにいこうぜ?」 「オレ来週からでいいから」 「バスケ行かないで何してんの?」 「ちょっと楽しいこと」 「ふーん? 女?」 「なんでだよ。違うわ。来週行くから、じゃあな」 「はいはい」  新太と別れて、図書室に向かう。  図書室の引き戸を開けて、ゆっくりと閉める。  相変わらず、人はまばら。図書委員と、あと数人。 「――――……桜木、いつも同じとこに座るんだな」  窓際の、隅っこ。入口から見にくい席。  類の隣、一つ席を空けて座り、そう言うと。  類は、ふ、と上を向いた。 「――――……あのさ」  珍しい。  類から、話しかけてきた。 「うん。なに?」  ……そんなのが、こんなに嬉しいって。 「……バスケ部、入るんだろ?」 「うん。入るよ」  ……ちゃんと自己紹介聞いてくれてたんだな。  またそれも、嬉しい。 「……じゃあ毎日、ここで、何してんの」 「桜木と話したいから。バスケ部行ったら、多分、ここ来れなくなるからさ。体験は来週末までだから。いいよ」 「――――……」 「……それよりさ」 「――――……」 「何でそういうのも、ここでないと話さないの? 教室、席前後なんだし、いつでも話してくれていいのに……」 「――――……」 「……オレと話してるとこ。見られたくないの? ここは人が居ないから、話してくれてる?」 「――――……」  答えないけど。否定しないから、そうなんだろうな……。 「……それって、誰の為?」 「――――……あのさ。オレ」 「うん?」 「……お前ともう、話さない」 「――――……は?」  突然言われた言葉に、少し焦る。 「え、何で? 何か怒った?」 「怒ってない。でも――――……もう、ほんとに良いから」 「何で?」  類は、何も言わずに、首を振った。  もうそこから。  全然。反応してくれなくなって。  あんまりしつこいと嫌われそうだなーと、思って。 「……桜木、本は、選んでくれる?」  類は、もう、聞こえてないみたいな態度。  今日はダメそうだな……。 「……今日は帰るね。あ。そういや、オレら、100メートルとリレーに出るって。さっき体育のセンセに聞いた。放課後の練習もあるって聞いた。よろしくな」  反応、全くなし。  ……まあ、しょうがないか。  昨日借りてた本を、カウンターで返した。  帰途につきながら、ため息。  昨日は一緒に帰ったのに。  ――――……少し懐いた動物が、また警戒心むき出しになった感じ。  ――――……どうしても、話したくない事があるんだろうなぁ……。  でもその内分かるっつーことは……知ってる奴が居るって事か。  でも噂話聞きまわるのも――――……嫌だし。それが真実とは限んねえし。  類から聞きたいけど。  ――――……あの様子じゃ、まだ無理だな。  つか、まだ無理、って。このままだと、永遠に無理なんじゃ……。  あの様子の奴と、どーやれば、そういうのを話してくれる位信じてもらえるようになるんだろう。  それを聞いて、そんなの、どうでもいいって言えない限り、類とはもうこれ以上仲良くはなれない気がするし。    もう、帰り道、ため息しか出てこない。  綺麗な顔が。完全に無表情で覆われている。  素直に笑ったら、この上なく、可愛いだろうに。  ――――……絡まない方が良いって。  多分オレに迷惑なのか何なのか、何かしらあるって意味で、あいつは言ってる。オレの為の言葉、な気がする。  ――――……でもそんなの、要らないのに。  何でも話してくれたら、全部、受け止められる気がするのに。  誰だよ。  あいつをあんな無表情にした奴。  ……人なのか、出来事なのか、何なのか分かんねえけど。  どうしたら、類、オレを信じて、笑うんだろう。    そんな事ばっかり考えながら、ずっと過ごした。 (2021/8/5)
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!

250人が本棚に入れています
本棚に追加