◇「Rain」本編

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 降りそう。 浩人(ひろと)、早く帰ってくればいいのに。  (るい)がそう思いながら、窓から空を見上げていた時。  テーブルの上に置いていたスマホが、鳴った。   「……もしもし?」 『あ、類?』    浩人の、いつも通り、優しい声が聞こえる。   「お前何してんの? 雨降りそうだぜ? 早く帰ってこいよ」    用件も聞かずにそう言った類に、浩人が電話の向こうでクスクス笑う。   『ゼミが長引いてさ。……それがなあ、類』 「ん?」 『今駅なんだけどさ。もう雨降って来てるんだよな……』    類は、次の言葉が予想できて、少し、無言。   「……お前、何が言いたい訳?」 『分かってるだろ?』  浩人がまたクスクス笑う。 「……とりあえず言ってみろよ」  類はため息をつきつつ、もう予想のついている言葉を促す。   『迎えに来て?』    思った通りの言葉に、類はため息を付いた。 「……やだ」 『なんでだよ? いいじゃん』 「ていうか、なんで今日傘持ってねえんだよ。朝からすげえ降りそうだったじゃんか」 『折りたたみがあると思ったら入ってなくてさ。迎えに来てよ、類?』 「……」   『帰ったら類の好きなもの作ってあげるから。な?』    ――――……別に、迎えに行かなくても、いつも浩人がご飯を作ってくれているけど。  類はため息をついた。   「……カルボナーラ作ってくれるなら」    そう言うと、浩人がふ、と笑うのが聞こえた。   『いいよ、分かった』 「10分、待ってろよな」    通話を切ろうと、スマホを耳から離した瞬間。      『あ、類!ちょっと待って!』  耳から大分離したのに聞こえてくる浩人の大きな声に、類は思わず苦笑いを浮かべる。   「んなでかい声出すなよ。外だろ? ……何?」 『傘1本でいいからな』    類はす、と無表情になる自分を感じた。  「は?」と一言、聞き返す。         『絶対2本持ってくんなよ?』 「……何で?」   『そんなの決まってるだろ。あいあいが』  最後まで聞かずに、類はスマホの通話終了を押した。    ――……あいつ、ほんとにほんとに、頭おかしい。  
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