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昨日から、事あるごとにずーっと、話しかけているのだけれど。
やっぱり人がいる所では、ほとんど話してくれない。
昨日は放課後は部活だったし。
……こんなに部活が鬱陶しいと思ったのは、初めて。
バスケが大好きすぎて、いつでもしていたい位なのに。
バスケより類の方が気になるって、それだけだって、バスケ始めた小3以来、初。
で。
今日。
祈りまくったおかげか、見事に晴れた。
100メートルとリレーに出るメンバーは、放課後教室で着替えて、校庭に集合。100メートルに出るのは、各クラス10人ずつ。
その中で、更に早いメンバーが5人ずつ、リレーの練習もする。
オレと類は、リレーも練習。
……足速くて良かった。
さっさと着替えて、類の前の席によりかかる。
「早く着替えて、行こうぜ、類」
そう言うと、類は、小さくため息。
「浩人ー先行ってるぞー」
昨日も今日も、オレが類に構ってると、皆、遠巻きに見てる。というか離れてる。
それもなんだかなと思うけど、とりあえず、今は、オレが類と仲良くなるのが先。類と他の奴の関係は、後回し。
帰宅組も部活組ももう教室には居なくて、練習組も今先に行ったので、教室にはオレと類の2人だけになった。
「……だから、いいよ、先行って」
2人になると、言葉を、発する。
ほんと。 あからさまだよなー……。
「オレは類と行きたい」
「――――……だから、類て呼ぶなってば」
「言っとくけど、オレが類って呼んでるの、もう皆知ってるよ。まあ当たり前だよね、オレ、デカい声で呼んでるし」
「…………」
「だから今更、気にする必要ないよ」
言うと、類は、黙って、それから、はー、と息を付いた。
「にしてもさ、こんな個別練習があるとかさ。先生たち、すごい気合入ってるよな? やっぱり3年連続で負けるわけにはいかないか」
笑いながら、そう言うと。
類は、体操着を頭からかぽ、とかぶりながら、オレをちらっと見た。
あ。可愛い。それ。
……髪の毛、ポワポワしてて。
言ったら、蹴り飛ばされそうなことを思いながら。
「何?」
聞くと。
「――――……手、抜けば良かった……」
「ん?」
「……あん時、お前が横に居たから――――……」
「んん?」
「……なんか、もう、色々うるさいし……負かしてやろうとか」
「え」
「……静かになるかなと思ったりしなかったら、適当に走ってたし。そしたら、こんなとこ、出なくて良かったのに」
「――――……え、何それ」
なんか今、意外過ぎること、言ったけど。
「類ってもしかして、オレを負かそうとして、本気で走ったの?」
「……そう。したら、お前、思ったより速くて」
「――――……」
「途中から本気で走ったけど、無理だったし」
「あ、あれって最初から本気で走ってねえの?」
「……もっと遅いと思ってたし」
「じゃあ、類、もっと速いって事か。 あれ、2本目3本目は? タイム、一気に落ちてたよな?」
「これに出されるの思い出して、遅く走ったんだけど……」
「……1本目が速すぎて、入れられちゃったのか」
ぷ。
可笑しい。
なんか、涼しい顔して、そんな事、考えてたのか。
「――――……」
く、と笑ってしまう。
「……何、笑いすぎ」
ちょっと睨まれるけど。
「なんか、類の行動にさ。オレが、そんな風に関わってて――――……で、類が失敗したなーとか思ってんのって」
「――――……」
「なんか、可愛い」
「……は? 可愛い??」
「うん、可愛い。類のペース、乱せるのって、すげえ嬉しい、オレ」
「――――……」
呆れたように、オレを見て。
「……言わなきゃ良かった。……やっぱり、話さない」
ぼそ、と言われて、また笑ってしまうと。
着替え終わった類が、オレを置いて、すたすた歩きだす。
「ていうか、待っててやってんのに、置いてくなよ」
「……頼んでないし」
言われて、そりゃそうだけどと、苦笑い。
なんか。
――――……類って。こんな冷めた顔でそんな事、思ってたとか。
オレを、負かそうとしてたんだ、とか。
……おもしろ。 かわいい。
そういうのを、少しでも、オレに話してくれるってだけでも。
――――……嬉しい。
(2021/8/15)
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